「諸君! 入学おめでとう! もう君たちに受験はありません。16年間、慶應義塾でともに身体を鍛え、楽しく学んでほしいと思います」

 これは、慶應幼稚舎の入学式における塾長の冒頭挨拶だという。

 彼ら・彼女たちはわずか6歳にして「慶應卒」という肩書きを手にいれた。もう受験戦争に巻き込まれることもなければ、浪人する心配もない。

 では一体、どのような試験を乗り越えているのだろうか。今回は幼稚舎の入学試験について掘り下げて考えてみたい。

*願書提出や合格倍率については第一回の記事をご確認ください。

 例年、試験内容は大きく3つのパートに分かれている。

 体操テスト、行動観察テスト、そして絵画・製作テストだ。他校との大きな違いがこの考査内容にある。そして、ここに「慶應」ならではの特徴が見られる。

 併願校として上げられるのが、共学の場合は早稲田実業、青山学院、学習院、成蹊。男子校であれば暁星や立教、女子校だと聖心、白百合、雙葉などが代表格だ。

 これらの小学校では、いずれも高い難易度のペーパーテストと面接(保護者同伴のケースも多い)を実施している。ちなみに慶應の横浜初等部でもペーパーテストが実施されている。

 では一体、なぜ幼稚舎はペーパーがないのだろうか。そして、どうやって子どもの能力を判断しているのだろうか。

 まずは、過去の幼稚舎の試験内容のうち特徴的なものを簡単に紹介したい。

体操テスト

 一番最初に実施される体操テストには、模倣体操やサーキット運動がある。

 模倣体操は、先生の指示どおりに、指折り・膝屈伸・前後屈・左右体伸ばし、その場でケンケン・飛行機バランス・前後腕回しなどを行う。月齢による違いはほとんどなく、考査の日時によって順番や内容が前後するという。

 サーキット運動では、ひとりの先生の説明を聞きながら、別の先生がお手本を見せる。試技は3回で、以下のような流れになっていたという。

1)スタートラインに並び、ひとりひとりスタートの枠に入る。

2)先に引いてあるラインまでダッシュし、ゴムとびを行う。

3)そして次の線までダッシュし、カゴの中のボールを壁に向かって投げ、跳ね返ったボールをキャッチしてボールをカゴに戻す。

4)次にコーンを周り、次の次の線までダッシュする

5)ゴールの線を越えてから、歩いて、スタートの列の一番後ろにつく。

 スタートは正座、長座、仰向け寝など、指示が変わる。難易度は子どもの生まれ月によっても変化するそうだ。

 多くの受験塾では、最初に発表された「お約束」(例:線を踏まない・お友達を抜かさないなど)を守ったり、指示通り動くことが評価されていると保護者に説明している。運動能力として早い・上手いというのも重要だが、その姿勢も見られているのだろう。