幸せの形は千差万別、自分で決めていい

 いまでこそ“普通”の呪いから自由になっている村上さんですが、恵まれなかった幼少期と、性的マイノリティーゆえの差別を経験したことで、心身が病み、普通に憧れた過去があります。

「普通の人は自信があってコミュニケーション能力があって、ゲイじゃないから幸せだと思い、羨ましかった。でも、自分を好きになり自尊心を持たなければ、何をしても不幸です。自分を好きになることと普通って、別ものなんです

読者プレゼント用のサインには「ありがとうございます」のひと言を添えてくれた。終始、穏やかな笑顔の村上さん 撮影/佐藤靖彦
読者プレゼント用のサインには「ありがとうございます」のひと言を添えてくれた。終始、穏やかな笑顔の村上さん 撮影/佐藤靖彦
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 一時は死を考えるほど悩んだ村上さんですが、今もともに暮らすパートナー、パンダさんに出会い、心理学を学ぶことで、自分を取り戻します。そして現在、もうひとりのパートナー、マイティさんも入れた3人で暮らしていることを、本書の中で触れています。

私が自分の生活を例にとり、パートナーシップについて書いたのは、生き方の多様性を紹介したかったからです。同性愛者にも異性愛者と同様、一夫一妻制の自縛があります。でも私はあくまで個人的にですが、当人たちが幸せならば、パートナーシップの形はなんでもいいと思っています。当然、コミュニケーションと同意が取れている、という前提ありきですが

 村上さん自身は、1対1でパートナーシップを持つモノガミーという指向ではなく、1対多数もしくは多数対多数でパートナーシップを持つポリガミーという指向です。それゆえ、2人のパートナーとともに家族として暮らすことを、選択したのです。

「話す勇気と、受け入れてくれる信頼があれば、この形は難しいことではありません。異性愛者の方でも、同じ人に魅力を感じるから仲よくなれる、婚姻関係の有無に関係なく助け合うというコミュニティーを作れる可能性はあると思います」

 万人がポリガミーになる必要はないのですが、“そういった指向・概念がある”“いろんな形で幸せになっている人がいる”と知ることは、ますます“普通”からの解放につながります。

結局、とにかく幸せに生きてほしいというのが、私がすべての読者に言いたかったことです。“普通”に振り回されていたかつての自分のような人に、形にこだわらず幸せに生きれば、周りを幸せにでき、間違いなく笑顔が広がります

 見えない“普通”より、たしかな自分を大切にすること。それさえ忘れなければ、人生は楽しく、きっとシンプル。この爽やかな読後感、本書を手に取りぜひ体験してください。

ライターは見た! 著者の素顔

 初見でタイトルに“ゲイの心理カウンセラー”と冠がついていることに、違和感を持っていた私。しかし読み進むうち、若き日の苦しむ村上青年を救う、異性愛者のカウンセラーはどこにもいなかったこと、この冠はいわば、ある人たちにとっての救いの象徴であることに気づきました。「日本では約20年前まで、ゲイは精神科の治療対象。でも今はLGBTという言葉も定着し、着実にいい方向に進んでいます」。村上さんの強く優しい気持ち、届けば幸いです。

(取材・文/中尾巴)

<プロフィール>
むらかみ・ゆたか◎1982年、福島県生まれ。心理カウンセラー。千葉商科大学にて経営・商学を学んだ後、専門学校にてマイクロカウンセリング理論、来談者中心療法、動物介在療法、芸術療法などを学ぶ。2007年にカウンセリングルームP・M・Rを開き、東京都中野区を拠点に数百人を超えるLGBTQI当事者や周辺家族の相談を受ける。また企業や法人、学校などにLGBT研修を提供し人材育成にも注力する。