「夫の両親や親戚などから陰口をたたかれるのが嫌な方や、夫の両親と縁を切ることに耐えられない方は踏みとどまることが多いと思います。届けを出して、縁は切るけど人間関係は続けるというわけにはいきませんから。でも、姻族関係終了届は、妻が単独で出すことができるんです。夫の両親に通告する必要はないんですよ」(露木氏)

 それでも後で義理の両親ともめることになるかもしれない。メリットとデメリットを見極める必要がある。

「メリットは、扶養義務から解放されることです。扶養義務は、大きく2つに分かれます。ひとつは、自分の子どもや配偶者に対する生活保持義務。自分の妻や子どもに自分と同じレベルの生活を送らせなければならないというもので、重い義務です。

 もうひとつは、義理の両親や兄弟に対する生活扶助義務。生活保持義務とは別で、自分に余力があれば助けるという程度の義務です。それでも嫌なら、姻族関係終了届を提出するしかありません。分籍届や復氏届では、夫の戸籍からは抜けますが、姻族関係は消えませんからね」(西原弁護士)

 区切りをつけることで、その後の人生を自由に生きられるというのもメリットのひとつだ。しかし、提出するとなると、精神的なハードルは高い。

「義理の両親に“あなたたちとは付き合いたくない”と言うようなものですからね。困ったときに頼る人をなくすこともデメリットです。

 例えば、もしお金で困ったときに、義理の母親が裕福であれば頼ることができます。届けを出すと、それができなくなってしまいます」(西原弁護士)

トラブルに巻き込まれやすい“死後離婚”

 人間関係で面倒が起きることは覚悟する必要がある。

「生前に夫の両親と同居していたり、身の回りの世話をしていたのであれば、義理のお兄さんなど、誰かが代わりをしなければなりません。その場合、引き継ぎをする必要がありますが、相手の理解を得て任せるのは難しいです。むしろ、生前に“あの嫁には介護は任せておけないな”と陰口を言われているぐらい仲が悪いほうが話を進めやすいかもしれません」(露木氏)

 生前、夫の両親から金銭や土地などの援助があったりすれば、関係解消は言い出しにくいだろう。“死後離婚”にトラブルはつきものだが、上原多香子のケースは特殊だ。

 彼女は、名前を旧姓に戻したものの、義理の両親との関係は切れていない。つまり、姻族関係は継続しているが、夫の戸籍から抜けた可能性が高い。

「姓を戻したのであれば、復氏届を出したということで間違いないと思います」(西原弁護士)

 上原の問題が明るみになったのは、TENNさんが亡くなった3年後に彼女が“籍を抜きたい”と言ったことに遺族が腹を立てたからだ。トラブルに巻き込まれやすい“死後離婚”は慎重に行動しなければならない。こうした場合、どうすれば遺族の怒りを買わずにすむのか。前出の露木氏は籍を抜いたり姻族関係を解消するなら夫が亡くなったときにするべきと指摘する。

「そうでないなら、再婚するまで夫の姓を残して。新しい人と再婚すれば戸籍からは抜けます。わざわざ、相手の両親の怒りを買ってまで抜ける必要はありません。ただ、上原さんのように30代で夫と死別するというケースはまれですので、こういう事態は起こりにくいです」

 新しい人生に踏み出すのは簡単なことではない。