東京での災害は“地震”だけだと思っていませんか? しかし、地形上弱点だらけの東京では、“水害”もまた起こりやすいのだといいます。迫り来る水没のXデーには、いったいどのような被害が予想されるのか、専門家に伺いました。

荒川下流の周辺には海抜ゼロメートル地帯が広がる

予想被害額は利根川の氾濫で34兆円、荒川の氾濫で33兆円

「東京は間違いなく、世界一、危ない都市です」

 こう断言するのは、東京都建設局の元職員で洪水対策に詳しい土屋信行さんだ。

東京は地震リスクがあるうえに、水害に弱い。たまたま70年近く大きな水害に遭っていないだけです」

 災害研究の第一人者である河田惠昭教授も、首都の水害に対するもろさを危惧するひとりだ。

「東京都心が広範囲に水没すると、1000人単位の死者が出ることは確実です。水没の原因としては、利根川と荒川の氾濫、東京湾に来襲する高潮と津波が考えられます。わが国の巨大災害の四天王は歴史的に地震、津波、高潮、洪水ですが、東京23区を中心とした地域はこの4点がセットでそろっている。横浜や名古屋、大阪なども該当しますが、東京の被害規模は抜きん出ています。世界の都市と比較しても、断トツのトップです」

 内閣府・中央防災会議の想定(’10年)では、利根川が氾濫した場合、死者数は約6300人と予測されている。

「さらに江戸川、荒川の堤防も決壊した場合は、住まいは水没し、3日以上も浸水することになり、避難者は約421万人にのぼると予想されています。予想被害額は利根川の氾濫で34兆円、荒川の氾濫で33兆円です」(土屋さん)

水没の可能性があるのは東京の約4割、さらに山の手も浸水する

 そもそも、東京が位置するのは関東平野のいちばん低い場所。

「東京は地形上、弱点だらけ。湿地が広がる東京は、江戸時代から埋め立てを進め、そして広大な経済産業用地を生み出し、発展してきました。江戸幕府の“利根川の東遷事業”で、利根川は銚子沖(千葉県)へ流れるように東京湾から無理やり河口を変えました。ひとたび洪水になれば、水は昔の川筋に従って流れます。なぜなら、そこが自然地形としていちばん低いから。“水の低きに就くが如し”です」(土屋さん)

 特に、満潮時の平均海水面よりも低い土地にある海抜ゼロメートル地帯では、水没の可能性が大きい。

「わが国の3大都市圏には広大な海抜ゼロメートル地帯が広がっています。過去に地下水の過剰な汲み上げを行ったせいです。特に東京では、地下水にメタンガスが含まれていたため、工業用に大量に汲み上げられました」(河田教授)

 その結果、地下水の利用規制が始まった1985年前後までの約50年間で、東京では最大4.5m、大阪では2.8mも地盤が沈下している。これによって、東京の洪水の危険性はさらに高まった、と土屋さん。続けてこう語る。

「海抜ゼロメートル地帯である墨田区、江東区、葛飾区、江戸川区では干潮になっても水が引かない。その外側には満潮になると水没する足立区、北区、荒川区、台東区がある。さらにその外側には、高潮災害が起こると水没する千代田区、中央区、港区、品川区、大田区、板橋区が広がっています。

 ここまで挙げただけで、もはや東京の約4割です。これらの地域は当然、浸水しやすく、また浸水後も水が抜けにくい」

 昭和33年に首都圏を襲った狩野川台風は、三浦半島に上陸し、関東東部を縦断した。東京では約33万戸が浸水。ゼロメートル地帯の広がる“下町”だけでなく、台地にあって水害は起きにくいと思われていた世田谷区、杉並区、中野区などの“山の手”でも大きな被害を招いた。

「狩野川台風では、河川の堤防は決壊していません。しかし、排水ポンプの能力を超える雨がたまり続けた結果、洪水が引き起こされました。近ごろはゲリラ豪雨も頻発しています。東京の山の手も、やはり浸水するんです」(土屋さん)