自信とやりがいを感じ、モチベーションがUP

 3日間で延べ18名の認知症を抱える方がホールスタッフとして従事。交代制で、本人や家族と相談し、ケアスタッフが見守るなか、過度な負担がかからないようにサービスに努める。料理はすべてプロのシェフが担当している。

三川泰子さん(左)と夫の一夫さん。ピアノの先生だった泰子さんは、楽譜が読めなくなって、鍵盤の位置がわからなくなり認知症に。料理店では、ピアノ演奏を一夫さんのバイオリン伴奏で披露した。撮影/渡邉智裕
三川泰子さん(左)と夫の一夫さん。ピアノの先生だった泰子さんは、楽譜が読めなくなって、鍵盤の位置がわからなくなり認知症に。料理店では、ピアノ演奏を一夫さんのバイオリン伴奏で披露した。撮影/渡邉智裕
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「体力や気持ちの面を考慮する福祉の専門家からの視点と、効率よくオペレーションするために必要なアイデアを出す飲食の専門家からの視点は違うので、十分な議論が必要でした」

 レストランとしてもきちんと機能させ、ロゴや内装などのデザインにもこだわって、認知症当事者とお客さん双方が楽しめる環境づくりを目指した。プレオープンのアンケートでは、「また来店したい」と、回答した人が90%という数字が物語るように、ただ単に認知症を抱える人たちを働かせる料理店というスタンスに帰結していないことも、支持を集めている理由だろう。

 2日間、ホールスタッフとして活躍した都内のグループホームに入居する70代女性の山田さん(仮名)は、「間違えても、みんなでサポートしてくれるので楽しい。お客さんの笑顔を見ると、やる気が湧いてくるの(笑)。自分ひとりでは何もできないってわかっているから、おかしな話だけど認知症当事者同士のコミュニケーションも抜群。私はもともと接客業をしていたから、こういう機会があるとやりがいを覚えるわ」と、穏やかな笑顔の中にも充実した表情をのぞかせる。

 山田さんのように、前回に引き続きホールスタッフを担当した方も多く、「また機会があるならやってみたい」と、早くも次回の開催を心待ちにしている参加者もいるほど。

若いころは美容師として働いていたという山田さん(仮名)は、「お客さんと話すのは楽しい。喜んでくれると頑張れる。まだまだ働けるわよ(笑)」撮影/渡邉智裕
若いころは美容師として働いていたという山田さん(仮名)は、「お客さんと話すのは楽しい。喜んでくれると頑張れる。まだまだ働けるわよ(笑)」撮影/渡邉智裕

 6月のプレオープンでは60%ほどあった“間違え”が、今回は25%ほどに減っている。

 認知症を抱える人であってもサポートをすればきちんとサーブ(給仕)ができることを実証した結果であると同時に、やりがいを感じることが当事者のモチベーションアップにつながることを示した好例ともいえる。

認知症の方は、自分でできることが少なくなっていくと自信を失い、みずからの存在意義を疑うという悪循環に陥ります。活躍することや認められることで自信を取り戻すため、『注文をまちがえる料理店』のような存在は心強いです」

 こう語るのは、山田さんが入居するグループホームのケアスタッフ。

 自分でやることの大切さを再認識させる場でもある同店の取り組みは今後、ますます大きな注目を集めそうだ。