食べることが大好きな日本人。例えば朝は和食、昼はフレンチ、夜はイタリアンと、1日3食・別の地域の食事をいただくことも、珍しくありません。大都会であれば世界中の料理が、田舎であっても少なくとも数か国の料理が、常時楽しめる稀有な国と言えます。

 でもそれに、時代がプラスされたらどうなるでしょう? 例えば江戸時代の和食、フランス革命前夜のフレンチ、ルネサンス期のイタリアンなんて、想像つきますか? もしかしたら、水戸黄門が食べたかもしれない和食、マリー・アントワネットの愛したお菓子、レオナルド・ダ・ヴィンチの作ったサラダなんて、興味がありませんか?

 大昔の失われつつあるレシピを再現し、食べることを通してその時代の文化や人々に思いをはせる……それを可能にした『歴メシ! 世界の歴史料理をおいしく食べる』(柏書房)が話題です。

歴メシで喜び驚くその顔がパワーの源

「大昔の失われつつあるレシピを再現し、食べることを通してその時代の文化や人々に思いをはせる……それを可能にしたのが、本著『歴メシ! 世界の歴史料理をおいしく食べる』です。僕が古い資料・文献をもとにレシピを再現し、場合によっては現代風にアレンジして“簡単で美味しい”を実現しました」

 こう話すのは、著者の歴史料理研究家・遠藤雅司さん。遠藤さんは会社員の傍ら、音楽と食のプロジェクト『音食紀行』を主宰。世界中のさまざまな時代の料理を再現し、同時代の音楽とともに楽しむイベントを全国各地で行っています。そして、実際にイベントで出して好評だったレシピを、この初著書の中で公開しました。

「レシピの中には、イベントの参加者から“この時代のこの国の料理をお願いします”とリクエストされたものもあります。例えば、メソポタミアの料理なんかそうですね。最初はギルガメッシュ叙事詩とハンムラビ法典くらいしか知識がなくて途方に暮れましたが、“最古の料理について書かれた本があるので、そこから調べてください”とヒントをいただいたので、すぐに本を手に入れて研究。試行錯誤の末、次のイベントに間に合わせました」

取材当日も持参してくれた“アカル”(古代メソポタミア)は素朴な味わい(写真は本著より)
取材当日も持参してくれた“アカル”(古代メソポタミア)は素朴な味わい(写真は本著より)

 ちなみに参加者からヒントをもらえることはまれ。たいていは平日の仕事後や休日に、ありとあらゆる手段で参考文献の存在を調べ、日本語の資料が見つかればできるかぎり原典も当たり、英語で読み進めることもしばしば。しかも昔のレシピというのは、かなり雑なものが多いのだとか。

「“鶏肉を切り、塩とミントを入れ、鍋にかける”なんて感じがほとんど。鶏肉は何グラム? 塩とミントは肉にすり込むのか? 鍋では蒸すのか焼くのか揚げるのか? など、クエスチョンマークが頭の中に飛び交います。結局は想像力で補って、自分で選択するんですけどね」

 イベント当日は、5品16人前を2時間で調理するなど、プロ顔負けの包丁さばきを見せます。

「イベントは大変だけど、僕のライフワークだと思っています。つらいこともあれば、楽しいこともある。僕はプロのシェフではないけど、参加者に料理を通して何か発見してもらったり、驚きや喜びを見せてもらったりすると、主宰者冥利に尽きるなって思います」