警察の性暴力への認識が反映された取り調べ

 なぜこのような取り調べになってしまうのか? 牧野さんは、取調官と被疑者の間に生じる「独特な人間関係」も大きいという。

「長時間にわたり密に接するうえ、取調官はテクニックをたくさん持ち、立場も上ですから、その権力を利用して独特の心理状態に持ち込める。被疑者は言われたとおりに供述したり、ついウケのいいことを言ってしまったりする。すると取調官も加害者がかわいくなる」

 裁判では、このようにして作られた供述調書が重視され、そのまま証拠として採用されることも多い。

「例えば裁判やニュースを通して、性犯罪は性欲が原因という誤った認識が広がってしまうと、男は性欲を抑えられないんだから女は刺激しちゃいけない、自衛しなさいとなる。性欲だからしかたないんだと、加害者を擁護することにもなってしまいます」

 性犯罪の予防を呼びかけるとき、被害を受けるかもしれない側にばかり自衛を促す考えは根強い。

「警察の性暴力への認識が反映されている。加害者には、性欲が動機かのような取り調べとして表れるし、被害者に関しては、落ち度を探るとか、自衛しなさいよといった形で出てくる」

 下の写真は、盗撮被害への注意を呼びかける防犯ポスター。“隙があるから被害に遭う”というレイプ神話が反映されている。

京都駅に掲示されていた警察の啓発ポスターのように女性に自衛を訴えかけるものは多い
京都駅に掲示されていた警察の啓発ポスターのように女性に自衛を訴えかけるものは多い
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「夜道のひとり歩きをやめましょうとか、挑発的な服装をやめましょうとか、性犯罪防止対策とは基本的に女性が行動を制限されることばかり。女性自身が自衛のため知っておくことはいいけれど、マナーやたしなみであるかのように公的機関から強要されるのは話が違います。例えば、なぜ戸締まりをするかというと、自分の空間を安全なものにして自由に生活するため。自由を確保するという目的から性犯罪対策を作れば、もっと違うものになるはずです

 そもそも加害者がいなければ、被害者も生まれようがない。

「被害者の支援や、加害者の再犯防止プログラムのような、当事者に目を向けた対策が必要なことは言うまでもありません。でも、長い目で見ることになりますが、加害者を生まない社会を作るにはどうしたらいいか、それを考えることも必要です」

性暴力被害の相談先
レイプクライシス・ネットワーク
性別、性的指向にかかわらず性暴力被害の支援を行う。
個別相談 rc-net@goo.jp
電話相談(性と人権相談)TEL017−722−3635 ※毎週木曜16時〜22時