本番で0にして奇跡を起こす

 映画を見た欽ちゃんファミリーのひとり、小堺一機氏はこう言う。

「僕が大将(萩本は業界ではこう呼ばれる)とではなく、ほかの舞台をやったとき“あ、稽古どおりに本番もやるんだ”と驚いたんです。大将は、その場でどんどん設定を変える。“笑いなんて稽古するものじゃない”と常々言ってました。だから、名優と素人は同じなんですね。中途半端に芝居するのがいちばんつまらない」

小堺一機さんは、萩本の番組で関根勤と組み「クロ子とグレ子」で人気を獲得
小堺一機さんは、萩本の番組で関根勤と組み「クロ子とグレ子」で人気を獲得
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 小堺氏は萩本のこの考えは、勝新太郎と同じだと言う。

「勝さんは“芝居をしなくなるためにするのが稽古だ”と言っていました。“普段どおりにできたら、みんなアカデミー賞だ”とも。大将を見てて思うのは、普通、天才って教えるのが苦手じゃないですか。ところが大将はすごく丁寧に理論で教えてくれる。遊ぶための土台作りは、理論的に固めるんです。理数系な感じがしますね。で、100まで組み立てて、本番で0にする。そして『奇跡』を起こさせるんです。すごいとしか言いようがない。だけど、その話が長い。誰かが止めないと、4時間でも5時間でも話し続けますからね(笑)」

 気になるのは、このままでは「30%の番組」は、土屋氏の日本テレビではなく、NHKに取られてしまうのではないかということだ。土屋氏が言う。

映画を手がけたTプロデューサーこと土屋敏男さん
映画を手がけたTプロデューサーこと土屋敏男さん

「僕の映画は、欽ちゃんのライフワークの番組に至るまでの“つなぎ”なんですよ。でも、映画は、欽ちゃんが命を懸けてモノを作っていく証拠になりました。今、若いテレビマンは迷っていますよね。テレビって何だ? 作るって何だ? とね。

 欽ちゃんは奇跡が起きるようにやる。偶然、人に出会って物語が生まれていく。今ないものを作ろうとする、その荒野からしか奇跡は生まれてこない。それを欽ちゃんは、あの映画で教えてくれたんです。だから、どこの局の問題じゃなく、テレビ全体の話なので引き続きフォローし追いかけてみたいと思っています」