更年期から加速する血管の老化、健診では見過ごしやすいワケ

 高血圧は血管トラブルを起こす大きな危険因子。

「例えば、ホースに大量の水を流したとします。ホースが傷んでやがては破裂しますよね。高血圧はこれと同じ状態。血管壁を傷つけて動脈硬化を促進させて、血管が詰まったり切れたりする引き金にもなります

 そう池谷先生は注意を促す。高血圧が怖いのは、自覚症状がなく進行することにある。

低血圧だからと思い込み血圧を測定していなかったら、すでに高血圧領域に入っていたというケースは少なくありません。特に更年期になると女性は体質が変わるので要注意。若いころの体質のことは忘れて、今の自分の身体と向き合いましょう」

 女性は更年期を迎えると、加齢に伴い急激に血圧が高くなっていく。閉経前は女性ホルモンによって守られていた血管が、更年期以降に女性ホルモンのエストロゲンが減少することによってもろくなるからだ。動脈硬化も男性並みに進行する。

「ここ数年、健康診断を受けていないという方は、きちんと血圧を測ってみることをオススメします」

 まずは、正しい血圧を知ることから始めてみよう。

■診療室では低い仮面低血圧とは?

 病院で測ると血圧は低いのに、それ以外では高くなることを“仮面低血圧”と呼ぶ。池谷先生によれば、「職場や家庭ではストレスで高血圧なのに、病院に来ると落ち着いて正常血圧になる人がいます。反対に“白衣高血圧”といって病院で血圧が上がる人も。やっかいなのは病院だけで血圧が下がる人のほうです」

 診療室での測定数値は問題ないので見過ごしていたら、夜間から早朝にかけて高血圧が続き、心筋梗塞や脳卒中に……という例は珍しくないそう。

「早朝は健康な人でも血圧が上がる時間帯ですが、上がり方が激しいと危ない」

 また睡眠時無呼吸症候群(以下、SAS)があると“夜間高血圧”の危険性が高くなると指摘する。

 前述のとおり、血圧は1日のなかで変動し、通常であれば睡眠時には低く安定している。ところが、夜も高いまま下がらなければ動脈硬化が進み、狭心症や脳梗塞などの引き金になりかねない。

 またSASを発症すると、睡眠中に呼吸停止や低呼吸に陥る。

「SASはメタボ体形の方に多いイメージがありますが、やせていてもかかります。小顔であごが小さい女性は特に危険。ただでさえ気道の面積が狭いのに、のども加齢とともにたるむため、寝ている間に呼吸を妨げてしまうのです

 早朝の血圧が高い人を調べてみると、SASが原因だったというケースも少なくない。

 これらの兆候を少しでも早く察知するには、家庭で血圧を測ることがオススメ。その際、測り方と測るタイミングに気をつけて、と池谷先生。

「正しく血圧を測っていない人が多い。患者さんから“めまいがしたから血圧を測った”などと、間違ったタイミングで測定した話をよく耳にします」

 血圧は何かあったから測るのではなく、朝と寝る前、決まったタイミングで測るのが正しいやり方。朝はトイレをすませた食前、夜なら就寝の直前、どちらも座ってから2~3分後、深呼吸して落ち着いてから連続して2回、測定を。

 測るときの姿勢は図のように、血圧計は上腕に巻くタイプがいいそう。

「手首や指先などで測る血圧計もありますが、正しく測定できるのは上腕のタイプです。心臓から離れるほど測定誤差が大きくなります。高血圧の基準は140/90mgですが、家で測るときは135/85mgを目安にしましょう

 135/85mgを超えたら、早めに循環器系のクリニックへ。高血圧と診断されたら一生、薬を飲み続けなければならないおそれもあるが、高血圧予備軍の場合、減塩指導や肥満解消、さらに運動習慣の実践といった生活指導だけですむ場合も。

「たとえ高血圧の薬を飲むことになっても、心筋梗塞や脳卒中を防いだほうがよほどいいと思いますよ」

 受診する際は、仮面低血圧の可能性もあるので、家庭で測定したデータを診療時に持参しよう。