「ホームドラマって、サスペンスなどと違い、わかりやすい起伏がないぶん、企画を出す側も演じる人間も難しいんです。テレビ東京だからこそ描ける作品になればいいですね」

 男手ひとつで育てた娘の結婚を前に、葛藤しながらも奮闘する父親を演じたスペシャルドラマ『娘の結婚』。自身には子どもがいないが、作品を通して、あらためて気づかされたことがあったという。

「父親(俳優の佐田啓二)が亡くなったのが38歳で、僕はまだ2歳半だったんです。だから自分自身が父親の年齢を越えるのが想像つかなかったし、子どもができて自分と同じ思いはさせたくなかったというのもあり、子どもをつくらなかった部分もあります。だから今回のお話を受けるときに、父親って何なんだろう? と……。

 周りに話を聞かせてもらったけど、子どもをもつ友人たちも“父親の存在意義って何だろう”って口をそろえるんです。やっぱり子どもにとって、母親が何よりも大きな存在なんだなって

 昔と比べてライフスタイルも大きく変化したが、シングルファーザーが置かれた状況はまだまだ厳しい。

「主夫も増えましたけど、子ども側からみてもシングルファーザーで育てあげるのは、まだまだ大変な世の中だと思います。そんな中、やむをえず父親だけで育てないといけなくなったという主人公の立場には共感できた部分もありました」

 劇中では娘の結婚という大きな転機を迎えるが、自身の大きな転機は?

「単身中国で撮影した映画『ヘブン・アンド・アース 天地英雄』(’04年)ですね。大学時代に『連合艦隊』で初めて映画の現場を経験したんですが、それから20年ぐらいたって、自分の進む道について悩んだときに自分をすごい困難に陥れて打開しないとダメなんじゃないかなって思ったんです。それで40歳の誕生日に、まだ経済発展中だった中国にひとりで行ったのですが、そこで人生観が大きく変わった気がします」

 スケジュールどおりに進まない撮影現場。水道からは砂まじりの水しか出ないホテル……など、日本とは勝手が違いすぎる環境に何度も心が折れそうになったという。そんなとき、あの大スターからの電話に救われたそう。

「よくわからないまま撮影も行われずに1週間も砂漠の真ん中にあるホテルで放置されたとき、さすがに我慢の限界に達して帰国しようと荷造りしたんです。そして今からホテルを出るぞというタイミングで、高倉健さんから電話があって。そのときの状況や不満を説明したら“つらいな。でも君はそこに何しに行っているの? 目的を果たさないのがいちばんカッコ悪い。ここで帰ってきたら負けだよな”と言われて、そこで自分が何のために行ったのかを思い出したんです」