料理は自由への扉。まずメシを炊こう!

 稲垣さんの本を読んでいると、料理はシンプルで自由で元気になるものだと実感できます。

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「例えば、夫婦でも親子でも、料理を誰がするかで押しつけ合いになっているじゃないですか。それがね、なんか変だなあと思うんですよね。料理なんかしなくていいんだったらこれほど素晴らしいことはない……って、本当にそうなんでしょうか? 食べるって、生きるっていうことですよね。いわば人生の首根っこです。

 その大事な部分を手放してしまっていいんでしょうか。他人やお金に頼らないと美味しいものを食べることができないって、本当に無力です。今の世の中、10年後にどうなっちゃうかわからない。

 そんな世の中で、お金がなくても、ちょっとしたスキルとちょっとした道具と、ちょっとしたお金があれば、すごくうまいものだけは、どんな環境に置かれても、外国行っても奥地に行っても自分の力で食べることができるなら、人間、怖いものなんてない。でもコンビニがないと生きていけません……ってなった途端、行ける場所も可能性も限られてしまいますよね。料理は自由への扉なんです。自分で料理する力を失ってはいけないと思います」

 稲垣さんのおばあさんは、40代に脳梗塞で倒れ、右半身が不自由になっても自分で料理し続けたそうです。ごく当たり前の日常を続けるように。

「母が病気になって料理が難しくなってきたとき、改めて祖母のことを思い出したんですが、祖母はレシピ本なんて使ってなかったんですよね。作るものといえば単純な煮物ばかり。味見をしながら適当に醤油とか酒とか入れて作っていたに違いないんです。でもそれがものすごく美味しかった。料理って本来そういうものだと思うんです。単純で身についた料理なら、身体が不自由になっても、最期の日まで1日でも長く自立して生きられる。自分で自分の食べるものを作ることができる。人に食べさせることもできる。そう思うことが自分が生きていくうえでのひとつの大きな柱というか。その点で、最後まで料理していた祖母の姿というのは、ひとつの希望。私にとっての希望です」

<取材後記>
稲垣さんと言えばアフロヘア。大阪の路上で、おばあさんに「若い人は自由でいいねえ」と話しかけられたエピソードは最高です。髪型だけでなく服装も自由な稲垣さん。「友達も面白い服を着てる人が多いです。みんなと同じ格好をしている人は何を考えているかわからないから友達になりづらい」という発言にはドキリ。以前、「着る人にも見る人にも希望を与えるメッセージを発するのが真のファッション」と稲垣さんが語っていたのを思い出しました。

●著者PROFILE

いながき・えみこ 1965年、愛知県生まれ。朝日新聞社大阪本社社会部デスクなどを経た後、論説委員として社説を担当。2016年退社。著書に『魂の退社』(東洋経済新報社)や節電生活を書いた『寂しい生活』(同上)など多数。

取材・文/ガンガーラ田津美 撮影/伊藤和幸