吸水性、保湿性にすぐれ、時間がたつと、吸い込んだ水分や湿気を自然に放出することから、“呼吸する素材”といわれる珪藻土。その特性を生かし、バスマットなどさまざまな商品が開発されている。

 では、このジャンルの草分け的存在である「ソイル」が、もともと左官業を営む会社だったことはご存じだろうか?

 左官とは、こてを使って建物の壁や床などを塗り仕上げる仕事。ソイルの前身となる『株式会社イスルギ』は、石川県金沢市で100年にわたってこれを生業としてきた。

 しかし、そんなイスルギにも、時代の波が押し寄せる。

「昔は10億円の建物なら、そのうち2億円は左官工事だったけど、いまはせいぜい2000万円。大勢の職人さんを抱えていたから、仕事を作らなきゃマズイと思ったんです」

 と、当時イスルギの専務だった石動(いするぎ)博一さん(現ソイル社長)。石川県のデザインセンターが主宰するモノ作りプロジェクトへの参加をきっかけに県内外のデザイナー、コンサルタントと協議を重ね、左官の技術と珪藻土を使った商品のアイデアが生まれた。

繊細な作業は女性の方が向いている

歯ブラシスタンド、コースター、乾燥剤、、傘立てなど全60種類の商品を展開している 撮影/Rui Izuchi
歯ブラシスタンド、コースター、乾燥剤、、傘立てなど全60種類の商品を展開している 撮影/Rui Izuchi

「ただ、ここで問題が発生します。せっかく新しい仕事を作ったのに、北陸新幹線の開通にともなって本業が忙しくなってしまったんですよ(笑)。職人たちも、こんな細かいモノを作るより、壁を塗ってるほうが楽しいみたいで(笑)。唯一、ベテラン職人の梶昌一さんが、“手伝うよ”と名乗りをあげてくれました

 当初は現場から退いたOBに協力を仰いで生産していたが、供給が安定しなかったため、石動さんは新たに人を雇おうと決めた。それも、左官職人ではない素人を、だ。

「ソイルの商品は、ごく一部を除き完全手作業。珪藻土の粉に水を入れて練ったものをシリコンの型に流し込み、上から左官のこてで平らにならすのですが、これがなかなか難しい。当然、梶さんは大反対でしたね。修業もしていない一般の人に、左官のこて使いができるわけないと。このあと、梶さんとは相当やり合うことになります(笑)」