「4年やっていますがまだまだです」という女性の手つきは職人そのもの 撮影/Rui Izuchi
「4年やっていますがまだまだです」という女性の手つきは職人そのもの 撮影/Rui Izuchi
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 しかし、そこには石動さんなりの思惑があった。

「なにも左官職人になって壁や床を塗れと言っているんじゃない。毎日同じモノを作り続けていたら、その技術だけは上達するんじゃないかと」

 梶さんは、当時のことをこう振り返る。

「自分は文字どおり“こて先”ひとつでいい仕事をしようと生きてきた人間だったので、生産性を上げるために素人さんを雇うという考えには共感できなかった」

 結局は石動さんが反対を押し切り、梶さんは先生として指導に当たることとなる。現在、ソイルの商品を作っているのは、主婦をはじめとした女性がほとんどだ。

「やっぱりね、左官職人たちとは全然仕事が違います。はっきり言って、いま働いている女性のほうがうまい(笑)。男性の職人はおおざっぱでダメですね。いざ試してみたら、こういう繊細な作業は女性のほうが向いているみたいです」(梶さん)

腕利き職人の梶昌一さん(左)とsoil株式会社代表の石動博一さん(右)撮影/Rui Izuchi
腕利き職人の梶昌一さん(左)とsoil株式会社代表の石動博一さん(右)撮影/Rui Izuchi

 以降、石動さんが「バスマットを作りたい」と言えば、梶さんは「人がのったら割れるから無理」と答え、「歯ブラシスタンドはどうか」と尋ねれば、「立体物は無理」と突っぱねる。

「僕が作るならどうとでもなりますよ。だけど、素人のみなさんに作ってもらうわけですから、簡単にOKは出せないんですよ」(梶さん)

 もちろん、ダメ出しでは終わらない。経営者であり、素人代表の石動さん、プロの職人である梶さんが、それぞれの立場から意見を交換し、製品化にこぎつけているのだ。

「2度とこんなツーショットないからね」(石動さん)

 そう言って、テレくさそうな笑顔で肩を組む2人には、何度もぶつかりながら築いてきた、確かな信頼があった。