アジア圏の場合は?

 タイなどの現地で代理母を取材し、『世界の産声に耳を澄ます』(朝日新聞出版)の著書がある、ノンフィクション作家の石井光太氏は、

「代理母出産はイタチごっこの世界なんですよ。'00年代でいちばん多かったのがインドだったんですが、欧米のゲイカップルの人たちが代理母出産で子どもをつくるのが問題視されて、インド政府が規制をかけた。それで'10年代はタイに移っていくのです」

 インド、タイともに費用は500万〜600万円と格安だったため、日本人も多く契約していたという。だが、オーストラリア人夫妻が、障害が見つかった男児を置き去りにした事件が発生。また、日本の大企業創業者の息子が少なくとも16人の子どもを代理母に出産させていたことも判明し、'15年にタイ政府は事実上、外国人の代理母出産を禁止したのだ。

タイの場合、代理母には50万〜100万円くらい払われます。総費用の10分の1から5分の1というのが世界的な相場ではないでしょうか。ただ、そこから現地のブローカーが中抜きするケースもありますから、実際に彼女たちが手にするお金はもう少し安くなるというのは聞いたことがあります」(石井氏)

 それでも、現地の年収から見れば数年分の金額に相当するため、代理母探しにはそれほど困らないという。

 だとすれば、子どもの欲しい夫婦と多額の金銭を受け取る代理母。いいことずくめの制度のような気がするが─。

代理母出産で傷ついている人もたくさんいるんです。そういうことにも目を向けないといけないでしょう

 と話すのは、生殖技術にまつわる問題に詳しい慶應義塾大学の長沖暁子准教授だ。

「'14年に代理母出産などの生殖医療の法整備をめぐり、自民党のプロジェクトチームが新法案を話し合ったことがありましたが、結局、国会には提出されませんでした。しかも、その法案では子どもの知る権利にいっさい触れていなかったんです」(長沖氏)

 親と代理母の間には契約上の同意が成立している。だが、生まれてくる子どもはそれがないのだから、その子の福祉を大前提とした制度を作るべきだと彼女は提言する。

代理母出産で生まれてきた子どもに対して、出自を知りたいと思ったときに、国はそれを保障するということが大前提でしょう。どういう経緯で代理母出産が行われたかということがちゃんと記録に残るということ。そして、子ども本人が問い合わせたら、そこにアクセスできるという形を作らないとだめです

 国もしっかりと答えを出そうとしない代理母出産。ただ、丸岡夫妻や向井夫妻のように、両親に真剣に望まれて生まれてきた子どもたちには、輝かしい未来が待っていることだけは、間違いないだろう。