瀬奈じゅん 撮影/伊藤和幸

 トニー賞5部門に輝いたブロードウェイ・ミュージカル『FUN HOME ファン・ホーム ある家族の悲喜劇』は、レズビアンで漫画家のアリソン・ベクダルの自伝的作品を舞台化した、かなり異色の物語。

 43歳になったアリソンが、ゲイであることを隠して自殺した父との思い出を回想することで、家族を、自分を、家族への思いを再発見していく。舞台には子ども時代、青春時代、大人と3人のアリソンが登場するが、大人アリソンを演じるのが、元宝塚トップスターの瀬奈じゅんさんだ。

今までにない役で、すごく魅力的な人だなぁと感じています。自殺や家族という重くて個人的な物語を、漫画というポップな手段で表現できる知性があって、自虐的なユーモアセンスを持った方なんです」

私が演じるのは安易じゃないかな?

 ミュージカル版は原作を再構築し、よりエモーショナルな作りになっている。

「初めて稽古(けいこ)場で本読みをしたとき、涙が止まらなくなってしまったんです。読んでいて、すごく哀しかったり寂しかったりするのに、どこか心が温かい。誰しもが持っている、家族への気持ちのようなものが改めて感じられて。自ら命を絶ってしまったと思われる父のことを回想しながら、ショッキングな出来事とかアリソンがレズビアンであることも含めて、淡々と語られていくんですね。それでいてなぜ、こんなにも温かい気持ちになるんだろうと、不思議に思いました」

 レズビアンの役を、宝塚で男役をしていた瀬奈さんが演じるのはイメージ的にピッタリかもしれない。でも実は、セクシュアリティーと無縁の男役とは非常にかけ離れた役。

私はこの話をいただいたとき“えっ、私でいいの?”と思ったんです。レズビアンというと“男装の麗人”みたいなイメージが世の中にはあるから、私が演じるのは安易なんじゃないかなって。でも、人が人を愛するのに男も女もLGBTも関係ないと思うので、そこは素直に表現したいですね。

 初めて本読みをしたとき、子ども時代のアリソン役の女の子が、当時は認識がなかったとしても間違いなくLGBTであろうという男っぽい女性を街で初めて見かけて、“わぁ素敵、カッコいい!”という衝撃と憧れの歌詞を、すごく素直に読んだんです。いろんなしがらみに揉(も)まれる前の、先入観とか偏見とか汚れたものがまったくない状態でその子が読んだのを聞いて、アリソンの本質が“これだ!”って。ここが原点なんだとわかった気がしたんです。そのピュアな部分を大切にしよう、と思いましたね」