「目元が似ているとよく言われます。自分でもそう思いますね」

 そう話すのは、90歳にして現役の画家の宇野藤雄さん。宇野昌磨の祖父だ。20歳で画家となり、過去にカンヌ国際展などで数々の賞を受賞。昨年もドバイで個展を開くなど、精力的に活動している。

 そんな彼の自信作が、孫の昌磨が優勝する姿を表した作品。同じモチーフの絵を3枚描き、この作品が完成形となった。

「描き始めたころは、昌磨がオリンピックで金メダルを取ったら、この絵をあげようと思っていました。ですが、出来がよくて展示にも耐えうる作品になったので、手元に残しておくつもりです」

 “昌磨の絵”とはいえ、題材がフィギュアスケートというだけで、彼そのものを描いているわけではないという。

昌磨がモデルの作品『氷上の舞』。藤雄さんが得意な日本独自の文化を題材にした絵の中に、スケートを滑る青年が。絵の下部には、羽生の大好きなあのクマの姿も。早くもマルタ共和国に出品が決定
昌磨がモデルの作品『氷上の舞』。藤雄さんが得意な日本独自の文化を題材にした絵の中に、スケートを滑る青年が。絵の下部には、羽生の大好きなあのクマの姿も。早くもマルタ共和国に出品が決定

「過去の昌磨でも、今の昌磨でもない。あくまでひとつの象徴として見てください」

 一流の芸術家らしいこだわりを持つ藤雄さんだが、フィギュアスケートについても独特な感性で表現した。

「ここまで芸術性を重要視するスポーツはほかにない。それなのに、得点にしなければならない。赤がいい? 青がいい? どちらも正しいのが芸術というもの。フィギュアは競技性が強すぎると思うね」

 絶対的エースの羽生と昌磨の演技について聞くと、

「昌磨と羽生くんは、タイプが違います。昌磨のほうが芸術性をストレートに表現できるタイプ。昌磨はピュアなので、素直に演技しています。健気だから。羽生くんは演じるタイプかな」

 こう祖父が分析するとおり、

「初めての五輪だから、感じたものを拒まず“緊張したら緊張したまま”のように感じたままいこうと思っていたので、(五輪を経験した思いは)特に何にもなかったです」

 と、孫の銀メダリストは素直な感想を漏らしていた。

 画家として海外を飛び回っていたため、孫と会うのは年に1回ほど。だが、少ない機会でも孫の大物ぶりを感じた。

「子どもの昌磨の口から“ライバルは自分自身”という言葉が出たときは驚きました」

 この発言を聞いて“大物になる”と確信したという。そんな孫も昨年12月で20歳。

「大人って感じはしないけど、やっぱり顔つきは変わったね」

 藤雄さんには、ひとつの秘めた思いがある。

「昌磨には芸術性を確立して見た者がア然とするような演技者を目指してもらいたい。夢のような話だけど、夢は大きければ大きいほどいい。私も人を圧倒するような絵をいつか描いてみたい。自分の絵にはまだまだ満足できていませんから。お互いに自分の芸術性を高めていく。そして、いつの日か昌磨と私、ふたりの博物館を作りたいです」

 世界一を目指す孫を持つ画家の夢は、金メダル級にスケールが大きかった。