室内に入ると、真っ黒に変色したバナナの皮が床にペロンと転がっていたのに気がついた。いたるところに、脱ぎ散らかされた洋服があり、開封済みのペットボトルが放置してあった。

「いわゆる、汚部屋でした。奥さん、専業主婦のはずなんですが、あまりの散らかりぶりにびっくりしました。相当、荒れた生活だというのは伝わってきました。奥さんも病んでそうだなって思いましたね。長年セックスレスのせいなのか、夫婦間が上手くいってないっていうのが分かりました

幸せそうな結婚式の写真を見ながら

 洋子が汚部屋ぶりに驚愕していると、陽介が普段通りといった様子で、「お風呂沸かすね、一緒に入ろう」とほほ笑んで、湯船にお湯を溜め始めた。

 洋子は誘われるがままに、浴室の湯舟に入った。シャンプーのボトルや床はカビだらけで、内心は寒気がしたが、素知らぬ顔をした。

お風呂には、子供のおもちゃがありました。壁には、『あ・い・う・え・お』って書かれたひらがな表が貼ってありました。狭い浴室なんですけど、湯船に二人で入って、イチャイチャしました。そんな状況でも結構楽しそうで、彼のあそこは元気になってましたね」

 お風呂から上がると、二人でソファーに座って、『シン・ゴジラ』を見て、ゲームをした。小さなゲストルームに案内されると、その部屋の壁にはウエディングドレス姿の結婚式の写真が貼ってあった。夫婦とも初々しくて、奥さんはスレンダー体形で可愛かった。

 陽介は、そんな写真の存在など気にならないようで、洋子を押し倒して、中に押し入ってきた。夫婦の写真を目の端で見ながら、

ついに、来るところまできちゃったなぁ……

 洋子は、陽介を受け入れながら、ぼんやりとした頭でそう思った。

 洋子はなぜ、不倫の沼にハマってしまったのか? 後編では、不倫の背景にある彼女と父親との関係をひも解いていきたい。

(後編に続く)

*後編は3月11日に公開します。


<筆者プロフィール>
菅野久美子(かんの・くみこ)
1982年、宮崎県生まれ。ノンフィクション・ライター。
最新刊は、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)。著書に『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)などがある。孤独死や特殊清掃の生々しい現場にスポットを当てた、『中年の孤独死が止まらない!』などの記事を『週刊SPA!』『週刊実話ザ・タブー』等、多数の媒体で執筆中。