保育士の人間関係は保育室内や園内で完結するため、外部に問題が知られにくい。そのため、「都合のいい仲間だけで心地よく仕事をしたい」と考える者も少なくない。トモさんは、仲間はずれのターゲットになったのだろう。

 トモさんはその後、小規模の無認可保育園でパート保育者として働いた。マンションの一室で常勤の保育者が2人、パート保育者が4〜5人という体制で20人弱の子どもたちをみていた。常勤の2人は幼稚園教諭免許だけをもつ40代の先生と、ベビーシッターとチャイルドマインダーの資格だけをもつ20代の先生。パート保育者にも、トモさんの知る限り保育士資格を持つ人はいなかったという。

 つまり、その園には保育士資格をもつ保育者がいない、もしくは多くの時間いなかったことになる。東京都福祉保健局の『認可外保育施設指導監督基準』では、「保育に従事する者のおおむね3分の1(保育に従事する者が2人の施設にあっては、1人)以上は、保育士又は看護師(助産師及び保健師を含む。)の資格を有するものであること」とされているが、この条件を満たしていなかった可能性がある。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です
すべての写真を見る

 また、同基準では「常時、保育士又は看護師の資格を有する者が配置されていることが望ましい」とされているものの、こちらも強制ではないこともあってか守られていないようだ。

 その園では、子どもたちの昼食にお弁当が配布されるが、2歳から年長児まで同じ量を食べなければいけないことになっており、2歳児には明らかに多い量を無理に食べさせていた。トモさんはお昼寝中、寝ている子どもの口の中に食べ物がたくさん詰まっているのを発見した。窒息するのではないかと感じたが、トモさんもすぐに退職したため、その後このようなやり方が改善されたかどうかはわからない。

 夏場は道路沿いにビニールプールを出しており、園舎の前で丸裸になってタオルで拭かれていた。その様子を見た若いサラリーマン男性から冷やかすような言葉をかけられることもあった。

 そもそも、筆者の調べにより、この保育園は開業届けが出ていないこともわかった。経営者は、他にも仕事を持っている30代の男性。保育園の仕事は、事実上、パートタイムだった。本人は「物品を発注した」と言い張るがその記録がなかったり、「保護者に電話をした」と言っているのに発信履歴がなかったり……ということが何度もあり、職員からは信用されていない人物だったという。

 正規職員2名が他園に移る同じタイミングでトモさんも退職を決意。そのため、残されるのはパート職員4〜5名だけになってしまう、という事態になった。心配する保護者らに対して、経営者は「3月までは運営するが、その後のことはわかりません」と発言し、不信感を助長したという。

トラブルメーカーのような扱いを受けることに

 次に働いた都内の保育園では、トモさんはトラブルメーカーのような扱いを受けることになった。「一度失敗をしただけで何をやってもダメと判断されてしまう」と感じたという。

 本人の「失敗」とは何なのか。問いただすと、同じミスを繰り返したことがあり、連絡しなければならない内容の一部を報告し忘れることもあったと告白する。そのことは決して褒められたことではないが、ミスを頻発したわけではないようだ。

 連絡ミスの一件から、「あなたは絶対に保護者対応をするな」と言われたという。しかしある日、保育中に園児がトモさんにぶつかって軽いケガをしてしまった。翌日、その子が父親と登園してきたとき、受け入れ対応をできるのはトモさんだけだったため、「昨日はすみませんでした、大丈夫でしたか?」と声をかけた。当然のことといえるだろう。

 父親からは、「何の問題もありませんよ」と聞いて安心したが、その様子をみていた同僚の保育士が問題視した。「やるなと言っていたにもかかわらず保護者対応をした」ととがめられ、厳重注意を受けてしまったのだ。

 トモさんはこの園では、常勤保育士の補助としてクラス担任をしていたが、年度の途中の12月で退職を求められた。