ペットロスの悲しみの乗り越え方

 大切な家族の一員であるネコを看取ったり、そうでなくても、なんらかの事情で手放さなければならなくなったとき、喪失感に襲われて、しばらくの間はなにもする気が起きない日が続くかもしれません。

 ネコがいなくなってから、小さなネコがどれほど大きな存在であったのかに気づかされます。ネコに対する思いは一人ひとり異なり、そのネコと飼い主との関係は世界に1つしか存在しません。

イラスト/まなかちひろ
イラスト/まなかちひろ
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 最愛のペットの喪失(ペットロス)による悲しみの感じ方も一人ひとり違いますが、ネコとの心のきずなが強ければ強いほど、深い悲しみからなかなか立ち直れないこともあります。悲しくてなにも手につかなくなったり、眠れなくなったりすることもあるでしょう。誰かに怒りをぶつけたり、「あのとき、ああしていれば……」などと後悔の念に駆られて、自分のことを責めたりすることもあるでしょう。

 しかし、命が尽きるのは誰のせいでもなく、命が尽きる日は(ネコにかぎらず)誰にでもかならずやってきます。

 大切な家族の一員がいなくなれば悲しいのは当然です。泣きたいときは思いっきり泣いて、ネコの死を受け入れて、自分なりにネコとしっかりお別れすることが大切だと思います。

 見るのがつらければ、しばらくの間は写真や思い出の品をしまっておいてもよいでしょう。あなたがネコと一緒に過ごした楽しい幸せな思い出は、あなたの心の中にしっかりと刻み込まれています。

 理解を示してくれない人がいても気にすることはありません。ネコとの思い出を共有する家族や友達と思い出を語り合うのもよいでしょう。あるいは、インターネットのペットロス掲示板で、愛するペットへの想いをつづったり、ペットを亡くした人々の間でいつしか語られるようになった「虹の橋」という詩を読んでみたりすることで、少しは気持ちが楽になるかもしれません。

 日を追うごとに悲しい気持ちや後悔の念は薄れ、心にぽっかり空いた穴は、愛ネコとのたくさんの楽しかった思い出が埋めてくれるはずです。たくさんの写真の中からいちばんお気に入りの写真を選んで、愛ネコの写真に向かって「今までありがとう」と言う、やさしくて穏やかな気持ちになれる日がかならずやってきます。そのときは、あなたの最高の笑顔を見せてあげてください。ネコもそれを望んでいるはずです。

(文/壱岐田鶴子)

<プロフィール>
壱岐田鶴子(いき・たづこ)
獣医師。神戸大学農学部卒業後、航空会社勤務などを経て渡独。2003年、ミュンヘン大学獣医学部卒業。2005年、同大学獣医学部にて博士号取得。その後、同大学獣医学部動物行動学科に研究員として勤務。動物の行動治療学の研修をしながら、おもにネコのストレスホルモンと行動について研究する。2011年から、小動物の問題行動治療を専門分野とする獣医師として開業。http://www.vetbehavior.de/jp/