木皿泉さん 撮影/齋藤周造

 実は“木皿泉”とは、夫を“トムちゃん”、妻を“ときちゃん”と互いに呼び合う夫婦の共同ペンネームで、お話を伺ったのはときちゃん。これまで2人で『野ブタ。をプロデュース』『セクシーボイスアンドロボ』『Q10(キュート)』など人気ドラマを執筆し、ラジオドラマ、舞台、アニメ映画などにも脚本を提供している。そして今回出版された『お布団はタイムマシーン』は、絶大な支持を誇るエッセイ集『木皿食堂』シリーズの第3弾だ。

2人のおしゃべりが融合したエッセイ

木皿食堂を実際に書いているのは私ですが、私たち夫婦って一緒にいるとき、ずっと話しているんですね。あまりに長く話しているから、たまにどっちが何を言ったかわからなくなるほど。だから原稿の中身は2人の発言がミックスされています。読み返して“このギャグは俺が言ったのに”“でもきっかけは私!”とか、領土問題みたいによく言い合っています(笑)」

 妻のつづる言葉に夫の思いが溶け込み、独特の木皿節が完成。2人のおしゃべりの結晶が本書なのだ。

「神戸新聞、日経新聞、一般雑誌、文芸誌など複数の媒体に寄稿したエッセイがまとめられています。正直、好き嫌いでしか書いていないし、私は理屈っぽいし、夫婦でぐちゃぐちゃ言ってるだけで、いいのかなって思うものもあるんですけどね(笑)」

 電車の中、空中で指先を振る新興宗教の信者らしき乗客と、バーチャルな『ポケモンGO』でつながる集団には“見えないものを信じる”という共通点があること。デパートの中で、昔出会った人のモノばかり欲しがる女性の主体性のなさに馳せる思い。全財産が17円で、20円の食パンのミミも買えなかったけれど平気だった若き日の自分……。何げない日常のハッとした出来事をすくい上げ、思いを膨らませて読者に共感、笑い、うなずきを与えるエッセイが続く。

何かを見立てるのは私、けっこう得意なんです。トムちゃんのほうはテーマの切り方が上手だし、難しい現代思想の本なんかも読んでいるから、私が何か言うと“これってこういうこと?”って的確な返事をくれます。すると書くことがまとまっていくんです

 文章には、書いている人の人柄がにじみ出るというのが、2人の持論。エッセイならばなおさらだ。木皿泉の脚本のファンは、本著で脚本の世界観はどういった思想に裏づけられているかを確認できる。そして、ファンもそうではない人も、最終的には木皿泉そのものに魅了されていくことだろう。