飲み過ぎて病気になってもかまわない

 益城町に住んでいたものの、地震で全壊。すぐ隣の熊本市東区にあるみなし仮設(賃貸アパート)に住むようになった石井光廣さん(59)に出会った。

 震災後、休日は部屋にこもってお酒ばかり飲んでいたところ、みなし仮設を訪問している『よか隊ネット熊本』の職員に発見され、矢田部さんの診察を受けるようになったという。

仮設住宅の見守りを続ける精神科医・矢田部さん(右)
仮設住宅の見守りを続ける精神科医・矢田部さん(右)
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 石井さんが益城町に移り住んだのは2度目の離婚をした5年ほど前。ひとり暮らしだったが、町内会に入るほど地域コミュニティーがしっかりしていたため、寂しさは感じなかった。

「仲よしのおばあちゃんもいて、助け合いながら暮らしてた。それが震災後はバラバラ。私は機械保全の仕事を派遣でやっていましたが、会社の一時閉鎖後しばらくは車中泊でした。 

 1か月半後、会社が再開したので、すぐにこのアパートを見つけて仕事に復帰した。でも、ここは誰が住んでいるか全くわからない。被災者もいるらしいけど、挨拶程度しかない。それで夜と休日の酒量が増えちゃった

 4リットルペットボトルに入ったウイスキー、焼酎、ビールなど手当たり次第に飲んでいた。休日は朝から酒だけを飲み続けていたという。

 離婚後、幼い子どもたちと会えなくなり、被災してからも連絡がとれていない石井さんは自暴自棄になっていた。

「益城のアパートだったら、いつか子どもが訪ねて来てくれるかもしれないと希望も持っていた。でも、ここは知らない土地だから会いに来られない。

 何のために生きてるんだろう、飲みすぎて病気になってもかまわない。オレなんか死んだっていいとさえ思っていた

依存を予防する支援者らに救われて

 だが、『よか隊ネット熊本』の職員たちに出会い、徐々に気持ちが変化した。矢田部さんは「お酒が好きならやめなくていい」と言う。それが新鮮だった。

 熊本県では被災後「お酒も健康もあきらめない」というキャッチフレーズで、断酒より節酒を推奨し、依存予備軍に寄り添う支援を続けている。

 石井さんは、「まず酒量をきちんと測るように」とアドバイスを受けた。現在はきっちり記録を残し、落ち込むと酒量が増えることも自覚した。

「書き込むことで少しずつ量が落ち着いてきた。ちゃんと食べながら飲んでいるしね」

 この日は鰯のガーリックソテー、肉と野菜の炒め物、厚揚げと里いもの煮物など。「料理は好きだ」というだけあって、自作の料理はどれも美味しそうだった。

 ただ、「今でも休日は、つい昼間から飲んじゃうんだよね」と石井さんは人懐こい笑顔を見せる。