こんな風に、おかめの死をひとつひとつ分解していくと、なるほど、そのパーツは理解できる。それでも、このじりじりとせり上がる違和感はなんなのだろう。

 たぶん、彼女にとって、自分の死には根拠があった。だけど彼女が信じた死の根拠は、現代に生きる私たちにとっては跡形もなく破綻してしまっている。その甲斐のなさが本棚の後ろへ落としてしまった小さな紙のように、見えないけれど確実に存在していて、私はどうにも落ち着かないのだ。

 おそらくこの物語を読んだ誰もが(死ななくたって良いじゃん! 黙ってれば良いじゃん!)と思っただろう。二人だけの秘密にして、黙っていれば丸く収まるではないか。しかしおかめは夫の名誉を守るためにはそれでは済まされないと判断した。

 大工なのだから、完成した建築物が素晴らしければチーム内でどのメンバーの意見を採用しようとプロジェクトの成功に変わりはないはずだ。それで夫の名誉が傷つくとは思えない。

おかめ自害の謎を解く

 では、おかめはなぜ死んだのだろう。高次(と彼の名誉)にとって、おかめが生きていたら困ることが何かあっただろうか。八百年前の社会に思いを馳せつつ、サスペンスドラマよろしくおかめの死の真相を推理してみよう。

 まず、高次本人がおかめに助けられたことに後ろめたさを感じていたとすれば、口封じのためにおかめを殺す……という展開があるかもしれない。助けられたという屈辱に耐えられなくなり、殺してしまったというストーリーだ。

 あるいは、いかにも高次が犯人と思わせておいて、夫の苦悩を汲んだおかめが(自分があなたを裏切ることはない)と証明するために死んでみせた……というオチもありうる。

 いや、おかめ自身が、誰かにうっかり話してしまう可能性を危惧したということも考えられる。もしかしたら自分だって正しく評価されたいと思って告発してしまうかもしれない。

 はたまた、事実自体を消したかったのかも。おかめは腕の良い大工である夫を愛していた。夫の失敗という事実を許せず、それを知っている人物、つまり自分自身を消すことにしたのかも……。