結局、おかめが死に至ったことで、彼女の働きは現代にまで伝わることとなった。伝わっているということは、誰か――真実を知っている誰か――が人に話し、残したということだ。みんなに知られてしまったら、おかめの死の意味はなくなってしまう。それでも高次は人々に知ってほしかった。妻の存在をなかったものにしたくなかった。

おかめ、幸せになって

 私は「アイデアを出したおかめ自身が評価され、夫と一緒に建築家として成功する」という結末がなかったことが心から残念でならない。せめて彼女が満足していればいい、とはどうしても思えない。だって、彼女の人生はどうなるというのだ。

 おかめは男のピンチに出現して、都合のいいアイテムやフラグを与えてくれる美味しいキャラクターだったのか? 彼女の幸福が夫の幸福そのものだったら、それで報われたと言えるのだろうか。

 死んでしまったら、もう会えないのだ。人生の道のりのどこかで、必ずもうこれ以上一冊の本も読めなくなる瞬間、これ以上一曲の音楽も聴けなくなる瞬間、一枚の絵も描けなくなる瞬間がある。

 だからそのときまでは誰にも邪魔されず、できるだけ多く読んだり、聴いたり、描いたりしてほしい。自由に話して、自由に考えて、自由に働いて、あなたの心からの人生を一秒でも長く続けてほしい。そう思うのは私の勝手な希望だ。

「そんなことどうだっていいよ、放っておいてよ、余計なお世話だよ」「彼のために死ぬことが私の望みなの」。そう言われてしまうと私にはもう何も言えない。結局、まあ、そうなのだ。彼女の命なのだから。

 だけど私はほんとうに悲しい。悲しいとあなたに伝えられない関係が悲しい。私、あなたと友達だったらよかったのに。

――女だから、自分の存在を消すことが最もよい選択だから、私もそれで納得しているから。私、ほんとに全然後悔していないの。これから先どんな価値観の時代になろうと、何の後悔もないの。

 もしも友達だったらそうやって笑うあなたを張り倒し、「うっせーバカ! アホ! ステーキ食ってカラオケ行くぞ!」とキレることができたのに。ステーキ食って、カラオケ行って、そのまま夜行バスで眠って、起きたら電車を乗り継いで、飛行機にも乗ったりして。

 あなたが満ち足りた気持ちでいられて、誰もそれを悪く思わない場所まで行ってしまえたのに。もちろん、あなたの功績を残してどこかへ移動しなければならないことに私は忸怩(じくじ)たる思いを感じるけれど、それでも、何でもいいから生きていてほしかった。