「父親の働く姿というのは、息子はもちろん娘にも影響を与えているような気がします。私の父は猛烈社員で明け方に帰宅するような生活を送っていたのですが、会社員時代の私も似たような働き方をしていた時期がありました。

 もし、夕方6時に帰宅するような父親だったら、ここまで働きすぎの人間にはならなかったような気がします」

『わたし、定時で帰ります』朱野帰子=著(新潮社/税込み1512円)※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします
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 会社を辞めて専業作家となってからの朱野さんは、朝も昼も夜も小説を書き続ける生活を送っていたそうだ。だが、本書のプロットを考えはじめたころから働き方が変わりはじめたという。

「2016年1月に出産をしてから、自分の思いどおりに仕事をすることが難しくなってしまったんです。ですから、今は午前中の3時間だけ集中して小説を書き、その後は事務仕事をしたり、気分転換をしたりと別のことに時間を使うようになりました。

 特に女性は働き方を変えざるをえない節目があると思うのですが、私の場合は出産が大きな転機となりました」

 朱野さんは、普段、読書から離れている人にも楽しく読んでもらえることを目指して、この小説を執筆したという。

「現実の世界だけを見ているのではなく、たまには頭を外に逃がす休息時間を作ることも大切だと思うんです。そんなときにこの小説を読んで気分転換をしてもらえたら、とてもうれしいです」   

ライターは見た!著者の素顔

 深海と宇宙をこよなく愛し、「深海やロケットの打ち上げ映像を見ることがいい気分転換になります」と話す朱野さん。会話を進めるうちに、意外な気分転換方法を実践していることが判明。

仕事関係でなんとなくは知っているけれど、ちゃんとお話をしたことはないような人とTwitterとかでつながって、自分から飲みに誘ったりするんです。そうやってほぼ初対面の人と話すと、気分がすごく変わるんです」


〈PROFILE〉
あけの・かえるこ ◎東京都生まれ。2009年『マタタビ潔子の猫魂』で第4回ダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞。2013年『駅物語』がヒット。2015年『海に降る』が連続ドラマ化される。生き生きとした人物造形と緻密でありながらダイナミックなストーリー展開で注目を集める気鋭の作家。

《取材・文/熊谷あづさ》