被災地で実感した
演劇のパワー

 劇団四季に入って以来、ミュージカル作品に出演してきた上川さんにとって、本作は初めてのストレートプレー。やはり違いを感じることも多いのだとか。

「僕たちの舞台が、見てくださる方にとって何かのきっかけになればうれしいです」 撮影/森田晃博
「僕たちの舞台が、見てくださる方にとって何かのきっかけになればうれしいです」 撮影/森田晃博
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「歌やダンスがないぶん、言葉だけで役の感情を表現しなければいけない。セリフをどう言えばより明確にこの作品のメッセージ、人物像が伝わるのか。またこの作品は、時代に合った佇まい、言葉遣いも意識しなければならないので、日々、自分の中での闘いがありますね。恋をささやく詩的なセリフも、ウィルらしさが色濃く出るところですので、照れずに自分のものとして言えるようにしなくては(笑)

 演劇を作る人々のバックステージものでもある本作は、作品そのものが演劇へのラブレターのような側面を持っている。その部分でも、共感しきりだそう。

「シェイクスピアが台本を作るというところから始まっていて、役者を集めて稽古をし、本番を迎えるというストーリーが、いま『恋におちたシェイクスピア』の上演に向けて稽古をしている自分たちの状況とピッタリ一致するんです。リンクしすぎていてときどき怖くなるくらい(笑)。芝居づくりに夢中になっている人間模様などに、リアルさが出ていると思います」

 作品中には、演劇が人々に与えうるパワーを感じさせるところもある。これは、上川さん自身も実感したことのあるものだ。

「東日本大震災後、被災地で行った『ユタと不思議な仲間たち』東北特別招待公演に出演させていただいたんですが、そのとき“舞台俳優には何ができるんだろう?”と、とても考えさせられました。でも見てくださった方々が“明日もこれで笑えるよ!”とか“見ている間は、つらいことを忘れられたよ”と言ってくださったときに“ああ、これが演劇の力なんだ”と思ったんです。僕たち俳優にできることはこれしかない。だから劇団四季の舞台が、お客様にとって何かのきっかけになればこんなにうれしいことはありません。その方がわれわれと一緒に心を動かして、泣いて笑って怒って、身近なものとして感じてもらえたらという思いで舞台を務めています」

 今回の舞台でも、その思いは同じ。

「この作品を見た方が“シェイクスピアに対する考えが変わった”とか“ああ、『ロミオとジュリエット』を読み返してみよう”と思ってくださったらうれしいですね。また観劇後、もとになった映画を見ると、また違った見方ができると思います。舞台はナマモノですし、その場を共有できるということは大きな力になると思うんです。だから少しでも何か新鮮なものを感じて楽しんでいただけるよう、もっともっと役を深めていきたいと思っています

<出演情報>
『恋におちたシェイクスピア』
 1998年に製作された同名映画が、ロンドンで舞台版として上演されたのが2014年。このとき『ビリー・エリオット』のリー・ホールが手がけて好評を博した舞台版台本を用いて、劇団四季が演出家の青木豪を招き、オリジナル演出で贈るストレートプレー。6月22日~8月26日 東京・自由劇場で上演。以後、9月7日~9月30日 京都劇場、10月12日〜11月25日 東京・自由劇場、12月より福岡・キャナルシティ劇場で上演予定。

<プロフィール>
かみかわ・かずや  10月7日生まれ、島根県出身。2005年、研究所に入所。『人間になりたがった猫』で初舞台を踏み、2008年には同作品で主役に抜擢された。以後、『春のめざめ』のメルヒオール、『リトルマーメイド』のエリックなどを演じる。2011年東日本大震災後に被災地で上演された東北特別招待公演『ユタと不思議な仲間たち』では全45公演で主役のユタを演じている。

<取材・文/若林ゆり>