「擬態女王」と「妄想姫」

 さて。絶対マストな人材を。最初っからかなりの高みに自分を置いて、上から目線で威圧しまくったのが、若様こと若尾綾香さん。バチェラーには決して見せない、底意地の悪い顔と秀逸な策略に、みな虜になったよ。

 スタイルは超絶いいし、一瞬、元オセロの中島知子と杉本彩を足して2で割ったような印象の若様だが、間違いなく美人枠だ。紀州のドン・ファンが好みそうなルックスでもあり「トロフィー・ワイフ」という言葉が似合うタイプの女性だ。

 すごいのは、駆け引きとウソ泣きがめちゃくちゃうまいところ。さっと引くところは引く。そして、自在に流す涙。自分に注目を集める術を心得ている。

 正直「うわぁ、プロがきちゃったよ」と思ったほど。バチェラーに聞かれても、自分の過去の話はほとんどせず、はぐらかす。聞き上手と甘えんぼなフリをする「擬態」が玄人の域である。

 ところが、だ。バチェラーの両親と会う、最終4人まで残った若様が、まさかの大失態を見せた。

 自分のことばかり話してウソ泣きしちゃう若様に「なぜそこでこんなミスを?!」と驚いた。案の定、バチェラーの父も母も、見抜いていた。若様の本質が「擬態の女王」であることを。ドラマチックだわぁ。アラートどころかラッパ吹いちゃうね、こういう場面は。

 もうひとり、女性陣から最も嫌われた、あずあずこと野田あず沙さん。

 若い頃の山村紅葉を彷彿(ほうふつ)とさせる、ねっとりとした攻めは、本当に番組を盛り上げてくれた。ビーチでまさかのオイルマッサージを始めちゃったときは、シーズン1の鶴愛佳さんを彷彿とさせた。彷彿とさせまくりだな、あずあず。

 バチェラーとのデートを妄想込みで解説する姿には「ああ、いるいる。お花畑にいらっしゃる姫ね」と視聴者全員があ然とした。妄想力こそ機動力。残念ながら「うっかり貯金自慢」によって敗退したが、すさまじく他の女性に噛みつき続けた健闘は称えたい。

 男を落とすための手練手管を学べると思って視聴する人もいれば、その毒牙にまんまとバチェラーが引っかかるのを意地悪く見守る人もいる。エンタメとわかっていながらも、参加女性たちがお披露目する恋愛哲学に目からウロコが落ちたりもする。

 今週金曜日にいよいよ勝者が決まるわけだが、回を重ねていくごとにバチェラーが疲弊していく様子もそれなりに楽しんだ。

 ハーレムのように思うかもしれないが、実際は選ぶ方も過酷だ。バチェラーがどんどん疲れ切って、心なしか、カラテカ矢部太郎のように見える瞬間も増えた。結婚を前提にした恋愛って、男も女も疲弊するのよね。


吉田潮(よしだ・うしお)◎コラムニスト 1972年生まれ、千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。テレビ『新・フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターも務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)ほか多数。新刊『産まないことは「逃げ」ですか?』に登場する姉は、イラストレーターの地獄カレー。公式サイト『吉田潮.com』http://yoshida-ushio.com/