そんな行き場のない思いを夫に打ち明けても、「そんな悲しいこと言うなよ」「次は大丈夫」と励まされるだけ。

 36歳で、ようやく授かった赤ちゃんを死産で失うというつらい体験までした。

「夫には仕事というやりがい、人生の意味がある。それなのにキャリアは中断、子どもも産めない女性はどうしたらいい? 何かやりがいを見つけようにも、子どものかわりになるものなんてない」

 追い詰められた池田さんを救ったのは、同じ経験をした仲間の存在だった。

 不妊治療中に、流産や死産を体験する人たちはとても多い。同じように死産体験を持つ先輩カウンセラーから、すぐにグリーフケア(遺族ケア)を受けた。1年ほど家に閉じこもり、その後、徐々に悲しみから立ち直っていった。

「不妊に悩む女性たちは、子どもができないことで、“自分が悪い”“自分には価値がない”と考えがち。誰にも言えず、相談できないまま、つらさをひとりで抱え込んでしまう。

 そして、不妊治療は“やめどき”が見つからない。時間やお金をかけるほど、子どものいない人生を考えられなくなってしまいます。努力してもどうにもならないことを追い求めても、自分を苦しめるだけ。頑張った自分を認めるしかないのです」

「ピア」とは仲間という意味だが、同じ体験をしているからこそ共感できることも多い。池田さんは、不妊の「ピアカウンセラー」として、これからも多くの当事者に寄り添っていくことだろう。


〈PROFILE〉
池田 麻里奈さん◎不妊カウンセラー、家族相談士。妊活当事者によるピアカウンセリングの相談室「コウノトリこころの相談室」主宰。http://kounotori.me/