「なのに『コーヒー飲む?』と聞いても、洋平の答えは『うん、ちょっと……』とか言うのよ。もう『ちょっとってなに? コーヒーいるの、いらないの?どっちよ!』なんて言い返す感じ。

 当時はこのコミュニケーションの問題が大きなハードルで、なぜ肯定も否定もしないのか不思議だった。どうしてはっきりとした言葉で伝えてくれないのかって」

「そんな経験を重ねていくうちに少しずつ気づいた。日本人の男性と結婚して、日本の伝統的な家族のひとりになる準備というのは、どれほど日本の伝統文化を勉強したとか、どれほどたくさんの本や映画で学んだとか、そういうことじゃなかった」

タラさんが気がついた日本文化の本質

 7年間の時を経て、今はっきりわかったと感じることがある。

「もしもあのままアメリカで暮らしていたら私たちの関係は今とまったく違うものだったはずよ。アメリカで結婚していた頃はおコメを炊かない日だって珍しくなくて、『今日はご飯を炊いてない、それだけでしょ』なんて言ったりしてた。

 でも今はそんなことありえない。ご飯がないなんて許されないことよ。お釜を空にするなんて絶対にしない。今はこれが私たちのライフスタイル、これが私たちの文化になったと実感してる」

「こんな小さなことだけど、でも積み重ねてきたらわかった。なぜ洋平が自分の気持ちを強く言葉にしないのか。つまりそういう文化じゃないということ。ここでの文化は、みんなが快適でいられることを大切にする文化、そのために自分の意見はどっちつかずにしてもいいときがある文化なの。

 伝えたい本音は少しほのめかしたり、それとなく示すだけでいい。今は彼の本心や言いたいことがすごくよくわかるようになった」

 タラさんと洋平さんの結婚は、小さな思いやりを丁寧に重ねる大切さを示してくれている。


バイエ・マクニール ◎作家 2004年来日。作家として日本での生活に関して2作品上梓したほか、ジャパン・タイムズ紙のコラムニストとして、日本に住むアフリカ系の人々の生活について執筆。また、日本における人種や多様化問題についての講演やワークショップも行っている。ジャズと映画、そしてラーメンをこよなく愛する。現在、第一作を翻訳中。