軟弱地盤に活断層、次々浮上する問題点

「取り消し裁判」で負けたとはいえ、まだ「承認撤回」という大きな手段が残っているのだから、知事は早くその権限を行使して工事を止め、あらためて国と戦ってほしい。多くの県民のその願いは、高まる一方であった。そして7月27日、ついに知事は埋め立て承認撤回を表明した。

 辺野古新基地建設をめぐっては、民意の無視以外にも重大な問題点が多々ある。

 例えば、大浦湾に活断層が走っている疑いが濃いこと、およびマヨネーズのような軟弱地盤が大浦湾側に存在すること。これらは防衛省自身が作成した資料からも明確に読み取れる。米軍の航空基地周辺の施設に関する「高さ制限」に違反する建物が周辺に多数あることも判明した。

 施工順序を変更する際になんの事前協議もなく工事を強行したこと。希少サンゴの移植などは環境保全策として科学的根拠が乏しいこと、ジュゴンの餌として知られる海草の移植などは、当初の計画に反してそれさえせず埋め殺そうとしていることなど。

 軟弱地盤については、大規模な地盤改良工事を避けることができない状態だと専門家は指摘している。それだけでも何年もの時間と莫大な予算増額を要する重大な事実の発覚だ。当然、工事設計自体の大幅な変更が必要であり、知事にその変更計画を再申請し、許可を得なければならない。これを翁長知事は拒否する権限を持つ。

 安倍政権の狙いは、はっきりしている。去る2月、辺野古新基地建設問題を争点にしないゴマカシ選挙戦術によって、政権の意を酌む渡具知武豊・名護市長を誕生させた。市議会議員時代から新基地容認・推進派として知られた人物である。このように11月の沖縄県知事選挙でも、政府の意向に沿う決断をする人間を勝たせたい。それに尽きる。

 しかしそうなってしまっては、沖縄の未来は絶望的だ。

 沖縄の経済発展の最大の阻害要因が米軍基地であるという認識は、財界有力者含め県民の間では常識になりつつある。県民総所得に占める基地関連収入の割合は、いまや5%程度。米軍基地が返還された地域ではショッピングモールなどが立ち並び、県の’15年試算では、基地跡地利用の直接経済効果は年1634億円(返還前52億円)にのぼる。

 戦後73年間も事件事故、騒音などの過重な基地負担に耐えてきた県民の我慢も、もはや限界に達している。米軍は長い間、戦後のどさくさにまぎれて強制接収した土地に居座ってきたわけだが、いま辺野古新基地を許すということは、すなわち沖縄県民が戦後初めて、自らの海と土地を進んで軍事基地のために差し出すことにほかならない。

 辺野古テント村に長らく掲げられていた幕がある。台風対策を繰り返すうちに幕自体は消失したが、書かれた言葉は多くの人の胸に刻まれ共有されている。那覇在住のウチナーンチュ女性がしたためた、その言葉を紹介したい。

沖縄戦の慰霊とは、基地をなくすこと」

 沖縄戦から新基地建設へとまっすぐにつながる基地問題は、むろん「沖縄だけの問題」であるはずがない。この国の政府の差別的姿勢が沖縄県民を苦しめ続けていることこそが問題。そして、その政府を支えているのはいったい誰かという大問題なのである。

取材・文・撮影/渡瀬夏彦

〈プロフィール〉
沖縄移住13年目のノンフィクションライター。基地問題からスポーツ、芸術芸能まで多岐にわたり取材。『銀の夢』で講談社ノンフィクション賞を受賞。秋に『沖縄が日本を倒す日』を緊急出版予定

※週刊女性2018年8月14日号(7月31日発売)より転載
※2018年8月12日、画像内の「19日に閉ざされた開口部」の位置を修正