老いを生き抜くのは困難ばかりではない

 ただ単純なシニアのサクセスストーリーではないところも本作の魅力だ。

 例えば、まり子が家を出たのは、息子夫婦たちと折り合いが悪く、長生きしすぎたように感じられ、居場所がなかったからだ。作家仲間のひとりは、4世代同居にもかかわらず「家庭内孤独死」を遂げた。男やもめである初恋の相手は、高速道路を逆走し、認知症の兆しを見せている。

 65歳以上のシニアの単身世帯は増え続け、厚生労働省の最新調査では27・1%を占める。2040年には4割に達するとの予測も。まり子たちが直面するさまざまな問題は現実に起こりうる、他人事ではないものばかりだ。

「高齢者問題のニュースを見ていると、お年寄りの未来は暗いのかと思えることもあります。でも、85歳になる私の母もデイサービスを利用していますし、介護施設やサービスの利用は、すでにこの国の“日常”ですよね。

 孤独死だって、いまとなっては珍しくありません。そもそも、ひとりで亡くなることが不幸かっていうと、そうとも言いきれない

 美貌と才能で鳴らした女流作家がいまやゴミ屋敷の住人と化している描写は、老いの切実さを感じさせる。

「ゴミ屋敷や汚部屋に関しては、個人的にすごく興味がありまして。どこか、いまの自分にもつながるところがあるなぁって(笑)。

 放っておくと部屋はどんどん汚くなっていきますし、ましてやお年寄りはどうしてもモノをためがち。登場人物のカリスマ作家・小桜蝶子もそうでしたが、“自分の大切な思い出”や愛着のあるものを捨てられないのではないかと思います

 ひとりで老いを生き抜くには困難がつきもの。でも、希望はある。

「高齢者をめぐるいろんな問題を取り上げていますが、それをまり子が自分の中で消化して受け止めつつ、うまく前に進める話にできるといいなと思っています。

 まり子は、決して理想の高齢者ではありません。今後もさまざまな問題にぶつかり、あがきながらも自分なりに社会にこぎだし、なんとか乗り越えていきます。自分もこんなふうになれるかも、こういう抜け道もあるのだな、と思ってもらえたらうれしいです

 おひとりさまでも、強くたくましく楽しく生きるには、どうすればいいのか?

「まり子のように仕事をいつまでも続けられるとは限りませんが、お金はあったほうがいいので、働ける環境があったらぜひ働いて。

 自分が必要とされる場所や役割があるのも大事。趣味の仲間のリーダーや地域の集まりの世話係をするのもいい。旅行でも買い物でも、何か目標を掲げることもいいと思います


〈PROFILE〉
おざわ・ゆき ◎漫画家。'64年生まれ。高1でデビュー。'15年には『凍りの掌 シベリア抑留記』、『あとかたの街』の2作品で第44回日本漫画家協会大賞を受賞