コンビニとストーリーを共有

 ウーピーパイは、よく売れた。だが問題もあった。「洋生菓子」は流通が難しく、送料が高額になってしまうのだ。そこでかわりに作り始めたのが、無農薬栽培の素材にこだわった「ココクッキー」。

 2013年3月、このクッキーが、ある大手コンビニチェーンで取り扱われるようになり、会社は飛躍し始める。

 それはまったくの思いつきだった。娘を保育園に送り届け、公園の横をキックボードで走っているとき、ふとあるコンビニが目に入った。

 “うちのお菓子はあのコンビニに置けばいいんじゃない?”

 そこは健康志向の品ぞろえで知られるチェーンだった。

 みどりさんは、すぐにそのコンビニの本社の番号を調べ、電話をかけた。そして自分がお菓子屋さんであることを告げ、クッキーの仕入れ担当の方と話がしたいと頼み込んだ。

 電話口では、「クッキーは足りている」と言われたが、食い下がる。

「お菓子だけじゃなく、美味しいレモンスカッシュもあります。せめて、サンプルだけでもお送りしたいのですが」

 すると数日後。商品が美味しいと好評だったらしく、面談の場が設けられた。 みどりさんはその場で担当者にこう訴えかけたという。

「お母さん目線で作られたお菓子は、手売りだとどうしても限られた人にしか届きません。だからこそ、コンビニで買えるべきなんです」

 担当者はその力強い言葉を受け、「僕らは、こんな思いの込もった食べものを売るべきだ!」と賛同。“その商品を売ることがお客様の幸せにつながる”というストーリーを共有してくれた。

 発売までにかかった期間は半年。当時、みどりさんが売っていたクッキーは食品の表示法上、問題だらけだったからだ。食品流通に乗せるには、記載する情報はもちろん、食品表示の文字の大きさなども規定に沿ったものでなければいけない。担当者は販売できる商品になるよう、値付け、卸値といった基本的なところから、時間をかけて熱心に指導してくれたのだった。

 このクッキーは、現在まで6年間、『シャングリ・ラ ホテル東京』や『伊勢丹百貨店』で安定的に購入されている。

「施設で作っていることはセールストークにはしていません。身体に優しくて美味しいものを販売しているだけ。興味を持った人が箱の裏を見たら福祉施設で作ってるのを知って、ピンとくるくらいでちょうどいい。いちばんの目的は商売ですから」