反面、白鵬は「稀勢の里に横綱になってもらいたい」と度々発言していた。

 自らの著書『勝ち抜く力』などでも、“稀勢の里横綱待望説”を論じていた。「本当か?」とうがった見方をしていた人もいたようだが、今年の名古屋場所前、九重部屋での出稽古(他の相撲部屋に行って稽古すること)で、白鵬は迷いの底でもがく稀勢の里に会って声をかけ、稀勢の里と土俵で実戦的な稽古を重ねた。

 結果、稀勢の里は何度も白鵬に土俵に転がされながらも、「目が覚めた気がする」と語った。

 白鵬稀勢の里、横綱になった者にしか、土俵の上で切磋琢磨したチカラビトにしかわからない想いを共有しているのだろう。それが稀勢の里の力となり、また白鵬の喜びとなっているのだ。

 しかし名古屋場所は稀勢の里は初日から休場、白鵬も途中、支度部屋で足を滑らせて負傷、休場となった。

 そして今場所、3横綱がそろった。稀勢の里は辛勝という日も多かったが勝ちを重ね、その土俵の下には白鵬がいた。

かつての異様なコールは消えた

 何か私には、2人の間に絆めいたものがあったような気がしてならない。幕内1000勝、横綱として800勝という大記録を目指す白鵬の今場所、でもそれも「一勝必勝」という基本理念からというのを白鵬は知っている。そして、稀勢の里にとっては正に今場所はすべてが「一勝必勝」だ。

 13日目(9月21日)、白鵬vs稀勢の里の取組が行われた。この日、私は国技館でそれを見守った。