著書『赤ちゃんが頭を~』には、2年前に起こった、生後10か月の子どもがつかまり立ち中に転倒し、病院に運ばれた事例が紹介されている。

 前出・藤原医師は、

「転倒した場所に、(赤ちゃんの)母親と(父方の)祖父母がいたが医師はその事実を確認せず、眼底出血と硬膜下血腫が認められたため、児相に通告しました。児相は“虐待の疑い”で一時保護。乳児院への入所措置も決定しました。

 自宅に子どもを戻す際に提示された条件がひどいものでした。(1)24時間第三者の監視つき(2)母親の両親と同居し、親子3人の時間を作らないこと(3)認可保育園に預けること。児相との関係が終わるまで、1年1か月かかりました」

 冤罪を疑われた両親は、次のようにコメントを寄せた。

「医師は『少しでも虐待の疑いがあれば通告する義務がある』と言い、児相は『虐待虐待でないかは判断しない』と言いました。医師も児相もきちんと判断せず、『虐待の疑い』があれば親子分離されてしまう……。安心して子育てができる世の中を望みます」

児相の言いなりになりやすいシステム

 医師と児相の無責任・無判断が取材の中で浮き彫りになったが、法治国家である以上、きっちりと主張はできる。

「仮に一時保護されたとしても、2か月以内に不服申し立てをすることができます」

 と前出・藤原医師。しかし、

「弁護士をつけたり、カルテの開示請求をしたりしなければならない。『中村I型』を認めている医師にセカンドオピニオンを取り、診断書を児相に提出することも、児相側からするとクレームをつける親に映る。子どもを帰す決定を出すのは、同じ児相職員なのです……。なにより裁判で争っている間、子どもは帰ってきません」とも。

 それゆえ、児相の言いなりになりやすいシステムが幅をきかせることになる。

「脳の損傷にもかかわらず院内の虐待防止委員会で、脳外科医は蚊帳の外。そのため3兆候があるだけで、虐待だと通報されてしまう。海外でも3兆候がある事例は虐待と認められてきたが、近年では冤罪事件があったことが明らかになっています」(前同)

 だが、日本は今も“児童虐待冤罪”を生み続けている。生後1か月の乳児に脳損傷を負わせたとして今年3月、大阪地裁で母親に有罪判決が下った。実行可能なのは母親だけと認定され、病気や事故の可能性は丸ごと否定された。冤罪事件に詳しい甲南大学の笹倉香奈教授(刑事訴訟法)は、

子どもを守ることは最優先ですが、冤罪子どものためにはなりません。乳児院に入れられるなど子どもの心理的な負担が大きく、家族がボロボロになりかねないのです。医師でも誤ることはあります。冷静な議論をしていくことが必要です」