実際、「コアなファンを大事にしたい」とネットでのやり取りを重ねるアーティストほど、ファン以外の人々からは「絡みにくい」「迎合している」などと思われがちですが、安室さんは真逆。

「コアなファンを大事にするけど、自分の意思は絶対に貫く」という毅然とした姿が、ファンはもちろんファン以外の人々からも、国民的な歌姫と認められたのです。

 そして、「毅然としている」という印象を決定づけたのは、ここまで惜しまれながらも「40歳で引退」を決意し、実行したこと。ゼネラリストではなくスペシャリスト、コアなファンに近づくのではなく自分の意思を貫く。

 この2点が、安室さんに続く歌姫になるための前提条件なのかもしれません。

「競争より共存」の意識がエンタメに影響

 安室さんは、音楽やアーティストというジャンルのいわゆる“アイコン”(象徴的な存在)でした。さらに、その後継者が誕生しないことが、「シーンの盛り上がりに欠け、ビジネスが矮小化している」という印象につながっています。

 しかし、新たなアイコンが生まれないのは、音楽やアーティストだけではありません。俳優、タレント、アイドル、芸人、モデルなども、間口が広がり、人が増えるばかりでトップまで登り詰める人はほとんどいないのです。

「トップに登り詰めるのが難しいから、他ジャンルに参入する」という点は、アーティストと同じ。芸人が俳優をしたり、俳優が司会者をしたり、アイドルがコントをしたり、モデルがグラビアをしたりと、芸能活動はボーダーレス化する一方です。

「各ジャンルの刺激になる」と競争の激化を歓迎する声もありますが、「他の市場に入り込んで売り上げを分散し、各ジャンルのアイコンが生まれにくくなっている」というのが現実。

 エンタメに限らず、その業界を牽引するアイコンがいてこそ、シーン全体が盛り上がるだけに、ボーダーレス化が社会現象やブームを阻む1つの要因になっているのです。