8年前に路上生活が始まった

 この商店街から200メートルほど離れた台東区立玉姫公園でダンボールとブルーシートのテントを張って暮らしている人物がいる。東京都出身の荒井忠さん(65)だ。

「本名、顔出しでかまいませんよ。別に悪いことはしていないし、他人に迷惑もかけていませんから。でも、決して褒められたもんじゃないけどね」

 と荒井さんは屈託なく笑う。この公園には荒井さん以外に5人が住んでいる。

「区役所の職員などから“テントを撤去しろ”とは言われないですよ。ただし、新しくテントを立てようとする人は認められない。われわれは長年、住んでいるので黙認というわけです」

 この地に住み着いたのは約8年前。その前は3年ほど上野でホームレスをしていた。路上生活のきっかけはーー。

「トラックの運転手をしていたんだけど、長時間労働で給料が安くてね。いまでいうブラック企業だったから頭にきて社長をぶん殴ったの。それで集金した13万円を持って、そのままトンズラしたわけ」

 木賃宿といっても、3畳もない部屋に共同の風呂、トイレ、台所で1日2200円ぐらいだから単純計算で月に6万6000円の支出になる。それならば、まだテント生活のほうがまし、というのだ。

「近くにある職安がホームレス生活保護者へ発行している『ダンボール手帳』というのを持っていて、日比谷公園や代々木公園の清掃などの仕事が順番に回ってくる。1週間に1日仕事をすれば1週間は十分に暮らせるから」

 3年前、福島・飯館村へ除染の仕事で40日ほど行ったこともある。1キロ120円程度になる空き缶集めもやっているし、炊き出しもある。

「たまに近所の住民の方からのおすそ分けもあるので、食事に困ることはない。ゴミ箱をあさることはしませんね」

 荒井さんのようなホームレスは周辺では徐々に減りつつあるという。