節約や家族問題…他人事ではない万引きの原因

 万引きは女性が圧倒的に多く、30代以上女性の前科のない万引き事犯者の動機は「節約」がトップで、必ずしも貧困や転売が目的ではありません。意外と思われるかもしれませんが、本書に載っている事例を見ると、生活に困っていない、普段はきちんとしている人がなぜ万引きをしてしまうのかがよくわかります。

 例えば家を購入するために節約するよう夫から言われ、日々できる限りの節約をしていた40代主婦は、ある日、無意識にドレッシングの瓶をバッグに入れてしまい「節約をこんなに頑張っているんだから、このぐらい許される」と“もらって”しまったことから万引きを繰り返すようになります。この40代主婦のストレスの原因は「夫との関係」でしたが、家族の問題が原因となる場合が多いのも万引き依存症の特徴だそう。

「ライフサイクルの中では、いろいろなストレスがありますよね。例えば共働き世代の女性だと、自宅・子どもの保育園・スーパー・職場というサイクルを延々と回っていて、家ではよき母であり、職場では社会人としての役割があります。するとスーパーだけは普段、抑えているストレスを『悪い自分』を通して発散できる場所になってしまう。そこで万引きをすることで達成感や爽快感が味わえて、ストレスが解消される。これは満員電車で痴漢をする男性とメカニズムが非常に似ているんです。ストレスを解消する依存先が少ない人が何かの局面、その人にとって非常にストレスフルな状況や壁に直面したときに発露し、ハマっていくんです」

 1回目がうまくいったから、スッキリしたから、今度も大丈夫と繰り返してしまう。そして日常にある場所だからこそ耽溺(たんでき)し、やがて「節約のためだから」「盗まれるような死角がある陳列の店が悪い」などと認知が歪(ゆが)んでいってしまうのだそうです。また高齢になってくると、配偶者を亡くす、子どもが巣立ってしまうなどの喪失感から、ある日突然、万引きを始めてしまうことも多い……本当に他人事ではないのです!