栄養失調で片目はほとんど見えない

 近くの墨田区立隅田公園にはテントはない。しかし、ホームレスらしき男性が約20~30人おり、ベンチなどで過ごしていた。岩手県生まれの平賀誠一さん(79・仮名)は30年前から周辺で生活している。

「町工場でずっと溶接関係をやっていたけれど、急に仕事が減って、給料も安くなったのよ。それで知り合いがこのへんでホームレスをやっていたから、自分も会社を辞めてそうなった」(平賀さん)

 私生活では、19歳のとき、近所の世話好きなおばさんに強引に結婚させられたが、夫婦仲は悪く、20代後半であえなく離婚。子どもは一姫二太郎だったが、2人が小学生のときに妻が引き取った。

「元妻と息子は10年前に死んじゃったよ。娘にはとっくに子どもがいるが、彼女は昔から自分には懐いていなかったから連絡はとっていない」

 平賀さんの生活は月約8万円の厚生年金によって支えられている。日中は3、4か所の公園を巡り、1日に3合の酒を少しずつ飲みながら、ドン・キホーテで買った32円のおにぎりを1個だけ食べる毎日だ。

 夜は公園の外側の遊歩道で寝る。雨天時はスカイツリーの近くの地下街で。

「こんな生活をしているから、病院の検査で栄養失調だと言われた。目もかなり悪くて、片目はほとんど見えない。生活保護は受けたくない。こっちには自由があるからね」

スカイツリーができるとき、隅田川のほとりや公園にテントを張っていたホームレスの多くがこの場を離れていった
スカイツリーができるとき、隅田川のほとりや公園にテントを張っていたホームレスの多くがこの場を離れていった
【写真】取材を受けるホームレスの人々

 しかし、状況はだんだん厳しくなってきた感じがするという。

「スカイツリーが完成する少し前からテントは禁止になったし、居づらくなってきた。五輪のときは海外の観光客も押し寄せるだろうから、一種の“目隠し”で追い出されるんじゃないかと心配だよね」

 そんな平賀さんは2年後、どうするつもりなのか。

「沖縄で暮らしていたいね。温暖で、食べ物もうまいみたいだから」

 と目を輝かせていた。