発達障害はあくまで“凹凸症候群”

 これまで述べたように発達障害のある人は、生きていくうえでさまざまな困難に見舞われる。さらに具体的な症状の改善策構築まではまだまだ遠く、職場の同僚、上司はそれらに起因するミスを仕事能力の問題として片づけるケースも散見される。しかし、発達障害だから仕事ができないという世間一般の認識は、偏見そのものであり大間違いだ、と吉濱さんは言う。逆に、発達障害の人は全員と言っていいほど高い能力を持っている、と断言する。にもかかわらず、多くの人が仕事そのものではなく、その前段階でつまずき、せっかくの能力を発揮できないでいるのが現状だという。

吉濱ツトムさん 撮影/北村史成
吉濱ツトムさん 撮影/北村史成
【写真】取材を受ける吉濱さん

発達障害は劣った存在ではなく、あくまで“凹凸症候群”であることを知ってもらいたいと思います。凸の部分は非常に能力が高いのですが、一方の凹もすさまじく低い。その落差の大きさに自分も周囲も振り回されてしまい疲弊していきます。さらに総合的・事務的な業務が多くなる仕事の現場では、どうしても凹の部分が目立ってしまい、結果として問題児扱いされてしまうのです」

 日本の企業はマルチタスクをこなすゼネラリストになることが暗黙の了解とされがちだ。つまり、すべての業務において平均点を取ることが大前提となっている。しかし、発達障害の多くは、2つ以上のことを1度にこなすことが困難なうえ、できる業務とできない業務とに極端に差が出ることになる。このような日本の企業の現状を考えれば、まず「適職に就けるかどうか」がとても大事になってくる。

「度合いにもよりますが、専門的な分野を学んでスペシャリスト、専門職として働くことがオススメです。あるいは自営を志すのもいいでしょう。また、社会勉強という意味で3~5年とりあえず企業で働いてから適職を探す、という手もあると思います」

 発達障害を抱える人々への職場での風当たりはまだまだ厳しい。彼らはその類いまれな高い能力を発揮できないどころか、退職や転職を繰り返し、最悪、引きこもり生活へと突入するケースもあるという。また、どんなに頑張ってもできないことがあるのはしかたがないが、“私、発達障害だからできません”と開き直って周囲をイライラさせて、さらに状況を悪化させる、などということも。そんな事態に陥らないためにも、症状を改善・克服する取り組みを自ら積極的に行うことは重要なのだ。

 最後に発達障害に悩む人々に向けて、こう呼びかけた。

「自分の能力の凹の部分を多少補い、凸の部分を徹底的に伸ばすことで、人生は大幅に改善します。発達障害はダメな人間では決してない、それどころか人財になりうる存在であることを忘れないでほしい」

ライターは見た!著者の素顔

 取材スタッフに気を配り、質問に的確な言葉で理路整然とわかりやすく答えてくれる吉濱さん。彼に発達障害があるのは事前に聞いていなければわからなかったかもしれない。しかし、それは彼が発達障害と真摯(しんし)に向き合い続けた結果なのだと、取材を終えて改めて痛感した。彼が費やした時間と努力は想像をはるかに超えるものであったに違いない。“発達障害に完治はないが、大きく改善はできる”ということの体現者でもある吉濱さん。彼には症状に悩み、苦しむ人々の大きな希望になってもらいたいと切に思う。

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よしはま・つとむ◎発達障害カウンセラー。幼少のころから自閉症、アスペルガーの症状に悩まされる。発達障害の知識習得に取り組み、あらゆる改善法を研究・実践した結果、数年後、「典型的な症状」が半減。26歳で社会復帰。同じ症状で悩む人たちが口コミで相談に訪れるようになる。現在、個人セッションに加え、教育、医療、企業、NPO、公的機関からの相談を受けている。著書に『アスペルガーとして楽しく生きる』(風雲舎)、『コミックエッセイ 隠れアスペルガーさんの才能・仕事の見つけ方』(宝島社)など。

(取材・文/松岡理恵)