葬儀は死者だけのものではない

 東京・江戸川区にある東京都瑞江葬儀所。

瑞江葬儀所の正門からは施設が見えないつくりになっている
瑞江葬儀所の正門からは施設が見えないつくりになっている
【写真】『やすらぎ』の安置ルームと瑞江葬儀所の内外観

「こちらでは火葬を予約された方の棺を8体分、預かることができます」

 と高木康司所長。1日に火葬できるのは25件。1975年に全面改装した際、静寂な環境を守ると、地元と合意したためという。

 10時から14時の間に1回で5件ずつ火葬するが、

「空いている時間帯はないですね。葬儀会社さんから諸事情でキャンセルを受ける場合以外、ほぼ100%埋まっています」(高木所長)

 火葬場での風景にも変化が見られると高木所長が明かす。

「2~3年前から、棺を開けて最後に顔を合わせてお別れしたいと希望されるご葬家が増えていますね。棺保管をすると、そのまま火葬になりますので、最後にお別れをしたいということなのだと思います。ただ、次々にご葬家が来るので、5分~10分程度の時間ですが」

 前出の横田事業部長は、直葬に対しこんな思いを持つ。

「いきなり火葬場に行って一瞬で終わってしまうので、けじめをつけにくい方が出るかもしれません。葬儀を行うことで、けじめをつけられることがある。直葬にしてしまったために後々、“お通夜や告別式をしてちゃんと送りたかった”と後悔される方もいらっしゃいます。よしあしがあるのだと思います」

 厚生労働省によると'17年の死亡者数は134万人、うち65歳以上が120万人を占める。多くの高齢者が人生の終末期を迎えている。

 前出・山田准教授は、

「死にゆく人は子どもに迷惑をかけたくないと思っているため、直葬を希望する。だが、遺族は遺言どおりに行っても、気持ちを込められずモヤモヤする。周囲からはお別れをしたかったと言われる。だからこそ、追悼の区切りをつける必要があると思うのです。

 葬儀は死者だけのものでなく、生者のものでもある。それゆえに事前に納得できる形を話し合う必要がある。従来の葬儀という形がなくなりつつあるのですから」

 経済的理由から直葬を選ぶ人もいるというが、費用をかけなくても葬儀はできる。日蓮宗経王院の仲田恵慶住職はそう断言し、次のように話す。

「お骨またはお位牌を持って、“お布施もこれしか用意できないのですが、亡くなった方のその後が心配なので供養をお願いします”と言えば、良心あるお坊さんなら供養してくれるはず。お布施を開けたら500円しか入ってなかったことも実際にあります」

瑞江葬儀所の棺保管室は簡素で冷たい印象だ(同所提供)
瑞江葬儀所の棺保管室は簡素で冷たい印象だ(同所提供)

 独居老人が増え、孤独死も後を絶たない。隣近所との交流もなく、親の遺体を放置したまま年金の不正受給を続けるという罰当たりなニュースも珍しくない現代ニッポン。

 今後は無縁社会化がすすみ、こんな問題が表面化してくると山田准教授は話す。

「単身者が亡くなったとき親族がいたとしても、希薄な関係性から遺体を引き取らず結局、行政が引き取り火葬をすることがある。縁遠いからといって行政に丸投げするのはどうか。社会がサポートできる新たな葬送のシステムを形成していく必要があります」

 自己責任という言葉だけで片づけられない時代が到来している。