繁殖の中でメス猫はボロボロに

 繁殖方法にも大きな問題がある。

は通常、年に2回、繁殖させるのですが、は季節繁殖動物といって、日光が12時間以上当たると、メスに発情期がくる。交尾すると、67日前後で出産。それから2~8週間で再び発情期がきます。それを利用して、蛍光灯などを当ててやると、最大で年間4回まで子どもを産ませることができるんです」

 さすがに年間4回のケースはまれというが、年間3回の繁殖は「普通にやっている」(太田さん)のが現状。年3回であっても、当然ながら繁殖用のメスには相当な負担がかかる。

「歯がボロボロになったり、骨がすかすかになったりする。過酷どころか、虐待ですよね。繁殖を終える8歳前後までそれを繰り返すと、メスの体はまさしくボロボロになります」

 もうひとつ、繁殖をめぐり懸念されているのが、遺伝性疾患の問題だ。

ほど種雄の数が多くないので、より近いところでの近親交配になる。そのため、遺伝的な疾患が多くなってしまうんです。折れ耳と、ゆったりとして穏やかな動きが人気のスコティッシュフォールドが典型的。あの折れ耳自体が骨軟骨形成不全症という病気。骨が痛くて動けないから、動作も鈍くなる」

 いわば、売って儲けるために、わざわざ病気のをつくり出しているのだ。

「動物愛護管理法の順守事項に、業者は遺伝性疾患のある動物をつくるとか売ってはいけないとあります。したがって、愛護法の細目違反にあたる。自治体は指導、勧告、命令ができるとありますが、処分が下されるどころか放置されている状態ですね」

 こうした問題に対し、規制強化を求める声が後を絶たない。ペットショップでの生体販売そのものを取り締まるべきだとの意見も、よく耳にする。しかし、ペット業界にメスが入ることはほとんどない。なぜか?

はっきりいうと、環境省をはじめ自治体にやる気がないからです。ペット業界は巨大な産業で、ロビー活動もやっていて、政治家も味方につけている。むろん業界は自主規制などやるつもりはない。それに……」

 と、太田さんの口がややよどみ、こう切り出した。

「飼っている側にも問題がある。自分のペットがかわいければそれでいい、ほかはどうでもいいという人も多い。つまり行政、業界、消費者と三すくみでダメな状態なんです」

 はたして突破口はあるのだろうか?

「ビジネスとしてだけではなく、本当に動物のことを考える若い経営者も出てきています。飼い主さんも、若い世代は認識が変わってきているので、そこに期待したいですね」


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赤川学さん
社会学者。東京大学大学院人文社会系研究科教授。専門は近代日本を舞台にしたセクシュアリティーの歴史社会学

太田匡彦さん
朝日新聞経済部記者として流通業界などを取材。現在は文化くらし報道部に所属。著書に『を殺すのは誰か ペット流通の闇』(朝日新聞出版)など