自覚しづらい社会的ひきこもり
あるとき、どうしたらいいかわからなくなって、役所に置いてあった「ひきこもりの子をもつ親の会」のチラシを手に取った。うちの子もひきこもりなのかもしれないと初めて実感したそうだ。
ひきこもりというと、何年も自室から出てこず、家族とも会話をしないイメージがあるかもしれない。だが、実際はとても多様である。
この問題に詳しい精神科医の斎藤環氏は、「20代後半までに問題化し6か月以上、自宅にこもって社会参加しない状態が持続しており、ほかの精神障害がその第1の原因とは考えにくいもの」として“社会的ひきこもり”という言葉を生み出している。家族とは普通に話ができて、コンビニや趣味の用事で外出をするケースでも社会的接点をもたなければ、これに該当する。
最近では、本人や周囲にひきこもりの自覚がないまま、援助活動を開始せざるをえないことなども指摘されている。
まさに翔太さんにもあてはまるのではないだろうか。
恵子さんは親の会に出席してみて、苦しんでいるのは自分だけではないと知る。まず親が自分の身を省みてくださいと言われ、自分の人生を振り返った。
「子どもたちも小さいときはよく私の実家に行っていた。兄のところは女の子が3人、母も義姉も男の子が苦手だったみたいで、うちの息子は邪険にされていたようです。下の娘は可愛がってもらったんですが、私は、そのことに気づかなかっただけでなく、大人になってからは母と一緒になって息子に小言をいっていた。母が入院したとき、“ボクが行ったって喜ばないよ”と寂しそうに言ったのも覚えています。いろいろなことが積もり積もって、自分の存在意義みたいなものが見えなくなってしまったのかもしれない」
子どもを2人もうけて、無我夢中で働いてきた人生をこの年で振り返るのはつらいだろうと思う。自分の育て方が悪かったと苦しんでもきた。
「息子の同級生たちはみんな働いて結婚している。そういうのを見聞きすると、どうしてうちの子だけそれができないんだろうと羨ましいし、切なくもなります」