こんなに生活が苦しいと思わなかった

 JR亀山駅からバスで15分。山道を揺られていくと、白亜の巨大建造物がそびえたつ。かつて「世界の亀山ブランド」として名を馳せたシャープ亀山工場(三重県亀山市)だ。

 ここで働き「ものづくりの粋」の底辺を支えてきたのは、主に南米にルーツを持つ日系外国人たち。ボリビア出身のシマヅ・シズカさん(27)もそのひとり。県内で暮らす姉を頼って2015年、父親とともに来日した。脳梗塞を患い車いす生活となった父が「安全で豊かな祖国」で暮らせるよう、考えたうえでの選択だった。ところが─。

「こんなに生活が苦しいと思わなかった。(海外向けに放送されている)NHKにダマされた」

 そう言って苦笑するシマヅさんは昨年9月、3年間働いてきたシャープ亀山工場で「雇い止め」を宣告された。4000人もの労働者が突如クビを切られ、このうちシマヅさんを含む約3000人の外国人が職を失った。彼らをシャープに送り込んでいた派遣会社は「製造拠点を海外へ移すのでしかたがない」と話すだけ。たちまち生活は困窮し、住む家を失い、車で寝泊まりする人まで現れた。

 今回の雇い止めにあった外国人労働者のうち、約40名が加入する労働組合『ユニオンみえ』の書記次長、神部紅さんはこう話す。

「'18年7月に鈴鹿市で相談を受けたのが最初です。スーパーのフードコートに出向くとブラジルの方が大半で、ペルー、ボリビアなど20人ほどいました。内容は共通していて、シャープ亀山工場の雇い止めを通知されたと言う。大変な事態になると直感しました」

 まだ共通点はある。同じ派遣会社に雇われていたのだ。神部さんが続ける。

「派遣元の『ヒューマン』という企業はシャープの5次下請け。便宜上、ヒューマングループと呼んでいるのですが、同じ住所、同じ代表者名で、三重県内にいくつもの会社を登記している。ペーパーカンパニーの疑いがあります」

 外国人労働者たちは、ヒューマングループの派遣会社と1~2か月の雇用契約を結び、契約満了になる前に退職届を書き、またグループの別会社と同様の契約を交わす。そのようにして短期間での契約が会社を変える形で延々と繰り返されていた。派遣先はシャープ亀山工場で業務内容も変わらないのに、だ。

「派遣会社にとって社会保険の支払い義務を免れるうえ、労働者に有給休暇をとらせなくてもいいので好都合。工場の生産が減って人を減らしたいときも、合法的にクビを切ることができます。契約満了にすればいいのです」(神部さん)

 前触れもなく「会社がなくなる」こともあった。勤務中、指をケガしたシマヅさんが労災保険の手続きを求めたところ、派遣会社の担当者は「工場の減産で廃業した。会社がなくなったので手続きできない」と話し、つっぱねたという。