今さらだが「日本死ね」だ

 私自身、3年前にフルタイムのボランティアとなって労働収入がなくなったときに、少ない貯金を切り崩す日々に不安を覚え、求人情報を検索したことがある。

 その昔、工業系専門の通訳として働いていた経験を活かすべく、大手人材派遣会社の求人サイトを覗いてみると、通訳の時給も大暴落している。かつては時給5,000円以上だった仕事が2,000円ほどに。そして、専門的技能であるはずの通訳に時給1,300円という値がついているものまで発見したときには、その値崩れぶりに絶句した。それでも、この不景気だ、贅沢はいうまいと思うことにした。

「英語」「通訳」と条件を打ち込むと、三桁もの求人にヒットした。さすがは東京である。ホッと安堵しながら年齢を入れたら、いきなり求人数がゼロになった。一瞬、パソコンが不具合を起こしたのかと思った。何度目かのゼロを確かめたあと、笑いがこみあげた。気分的にはジョーカーみたいな笑い方をしたかったが、鼻息みたいな笑いしか出なかった。

 この国では、50過ぎたら働くことも許されないのか? 今さらだが、「日本死ね」である。

 前首相が「今の日本で最も生かしきれていない人材は女性だ。閉そく感の漂う日本を再び成長軌道に乗せる原動力だ」とのたまい、2013年に成長戦略の一つとして女性活躍推進を掲げ、二年後の2015年には女性活躍推進法が成立している。その結果、女性の雇用は進んだが、その約7割が不安定な非正規雇用だという現実。

 前首相の原稿を読む言葉がうわすべりして白々しく聞こえる原因は、彼の滑舌の悪さ以前に実態が伴っていないからではないか。形ばかりの「女性の活躍」をあざ笑うかのように、新型コロナは女性たちを直撃した。活躍どころかあっさりと切り捨てられた女性たちは、国や企業側に都合の良い「調整弁」でしかないことが証明されたわけだが、女性にとってはまさに生き死にに関わる一大事だ。冗談じゃない。

 私たちは限界だ。だから、どうか政治に変わってほしい。

 なりふりかまわず働いて、文句も言わずにポジティブ思考で頑張っても、生活はラクにはならず、コロナがとどめを刺してくる。だけど、それはあなたや私のせいではない。もちろん、ほかの誰より苦しい生活を強いられている外国人労働者のせいでもない。

 自分を家族を犠牲にしてもいけない。死んでもいけない。更に脆弱な状況下にある人たちを叩いてもいけない。政治は一夜にして変わらないが、生き延びるためには、どうしたらいいのか?

 それはズバリ、公助だ。

 苦しんでいる人たちは、是非、生活保護を利用してほしい。生活保護は恩恵でも恥でもないんです。これまで私たちが身を粉にして働いて払ってきた税金や、買い物などで納められた消費税などであるのだから、困ったときには貯金を下ろすように利用したっていい。

 令和2年10月26日、新しい首相に就任した菅総理は、その所信表明演説の最後にこう述べた。

「私が目指す社会像は、“自助・共助・公助”そして“絆”です。自分でできることは、まず、自分でやってみる。そして、家族、地域で互いに助け合う。その上で、政府がセーフティネットでお守りする。そうした国民から信頼される政府を目指します」

 私たちは十分に自分の力で頑張った。家族や地域で助け合うことも精一杯やってきて、まさに刀折れ矢尽きた状態にある。

 菅総理に言いたい。成熟した社会とは、まず充実した公助があって、その次に共助、自助なのではないのだろうか?

 12月10日、11月の自殺者数が発表された。その数、1798人。去昨年同月比で11.3%増(全体)だ。去年より増えるのはこれで5か月連続となる。そのすべてがコロナの影響かどうかはまだ分からないが、無関係とも到底思えない。

 政治、政策の力で、女性貧困を食い止め、そして自殺者を出さない国にしてほしいと切に願う。言うまでもないが、男性もだ。

*生活に困ったときの相談窓口一覧:https://corona-kinkyu-action.com/


小林美穂子(こばやしみほこ)1968年生まれ、『一般社団法人つくろい東京ファンド』のボランティア・スタッフ。路上での生活から支援を受けてアパート暮らしになった人たちの居場所兼就労の場として設立された「カフェ潮の路」のコーディネイター(女将)。幼少期をアフリカ、インドネシアで過ごし、長じてニュージーランド、マレーシアで働き、通訳職、上海での学生生活を経てから生活困窮者支援の活動を始めた。『コロナ禍の東京を駆ける』(岩波書店/共著)を11月に出版。