こんな役者、聞いた試しがない

 橋本の人気を高めたTBSの昨年7月期のドラマ『MIU404』での陣馬耕平役を思わせる言葉ではないか。陣馬は愛すべき熱血オヤジだった。

 大阪芸大は芸術学部のみの単科大であるものの、美術学科やデザイン学科、建築学科、映像学科、放送学科など15学科あり、約6000人の学生がいる。

 卒業生には人間国宝の陶芸家・前田昭博氏(67)や『どうぶつの森』シリーズを担当した任天堂のゲームクリエイター・手塚卓志(60)ら著名人がズラリ。

 役者のOB・OGも多い。筧利夫(58)、木下ほうか(57)、藤吉久美子(59)、渡辺いっけい(58)、ボーカリストも兼ねる世良公則(65)らである。学費未納のため除籍となったものの、古田新太(55)も4年次まで通っていた。

大阪芸術大学のホームページで紹介された、橋本じゅんの教授としてのメッセージ
大阪芸術大学のホームページで紹介された、橋本じゅんの教授としてのメッセージ
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 橋本は自らも学んだ舞台芸術学科で教えている。人柄も買われたのだろう。謙虚な人で、悪評がない。教育者向きに違いない。

『MIU404』が綾野剛(39)と星野源(40)のダブル主演だったのはご記憶のとおり。撮影当時、橋本は2人の絶妙の掛け合いについて、「自分がうまい役者になったような気にさせてくれます」と取材に答えている。綾野と星野がうまいのは間違いないが、この橋本の言葉はさすがに2人も面はゆかったのではないか。(*2)

 橋本は大阪芸大在学中の1985年、学内で生まれ、今や超が付くほどの人気劇団になった「劇団☆新感線」に参加。たちまち看板役者の1人となる。

 ドラマデビューも早かった。舞台での活躍が評価され、1987年に寺尾聰(73)が主演した大型ドラマ『君にささげる歌』(毎日放送=TBS系)に出演した。

 石田ひかり(48)が主演した1992年度後期のNHK連続テレビ小説『ひらり』にも出ている。プロ野球好きの青年医師役だった。

 茶の間での知名度と人気が急上昇したのは最近だが、ドラマ界での評価は古くからある人なのだ。演技巧者なので、善玉も悪玉も普通の人もリアルに演じる。

 その演技は深みも感じさせる。これはテクニックではなく、橋本の人柄によるものだろう。

 1996年から約1年間、役者を休み、イギリスの若年性筋ジストロフィー患者の施設に住み込み、ケースワーカーとして働いた。

「皆さんの暮らしのお手伝いをしていた。当初そんなつもりはなく、てか出来るかどうか不安ばかりだった。が、見学面談時に入居してる1人の青年と話して就労の約束を思わずしてしまった。ま、海が近くにあったのも後押しした」
(*3)

 こんな役者、聞いた試しがない。当時32歳。役者として脂がのっていた時期なのだ。半面、ガツガツしないところが橋本のいいところなのだろう。

 大学は橋本を愛している。昨年10月27日、同大の公式ホームページに「『MIU404』で人気急上昇! 橋本じゅん、野木亜紀子脚本でさらなる輝き」という文言が踊った。

 役者は自分の技量しか頼るものがない孤独な仕事だが、橋本には帰る場所がある。

*1 大阪芸大ブログ(2016年6月7日)
*2 熊本日日新聞社夕刊(4月20日)
*3 本人ブログ(2011年3月30日)

高堀冬彦(放送コラムニスト、ジャーナリスト)
1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社文化部記者(放送担当)、「サンデー毎日」(毎日新聞出版社)編集次長などを経て2019年に独立