SNSへの書き込みや、テレビでの発言、さらには誹謗中傷など、「言葉」の意味や価値が改めて問われる今の時代。言葉は多くの人の救いにもなるが、時として“凶器”ともなる。

 ニュースでは芸能人への誹謗中傷が度々話題となるが、他人ごとではない。親から言われた言葉、友達から言われた言葉、恋人や上司、はたまた赤の他人から言われた言葉――。身近な人の言葉ひとつが、大きな影を落とすことも。

恋人から「飛び降りれば死ねるじゃん

 そのひとつが、「死ね」という言葉。その言葉を本気で「死んでくれ」という意味で使っている人はほとんどいないだろう。でも、「そんなつもりはなかった」と思って放った言葉でも、相手が本気で受け取って命を落としてしまえば、どんな言い訳も通用しなくなる。

 最近では、アメリカ・マサチューセッツ州で、恋人に自殺を促す大量のメッセージを送り、自殺に追い込んだある女性の “テキストメッセージ殺人”について、Newsweekが報じた。同州では2014年にも、メッセージで女性が交際相手の男性を自殺に追い込むという、同様の事件が発生している。

 日本でも2014年、LINEで「死んでくれ」「手首切るより飛び降りれば死ねるじゃん」と交際相手の女性に送り、実際に自殺させたとして男子大学生が自殺教唆容疑で逮捕されている。女性は「何でそんなひどいことを言うの」などと返信していたという。また、昨年2月には、山形で中学一年生の女子学生が自殺しているが、『文春オンライン』によると、彼女の下駄箱には「死ね」「キモい」という手紙が置かれ続けていたという。

 このように、実際に「言葉に殺された」人たちがいる。

 大半の人は「言われても私は大丈夫」と思っているかもしれない。しかし、人は「死ね」と言われ続けたら、本当に死にたくなってしまうものなのだろうか。

「“死ね”と何度も言われ続けると、死への距離が近づくことは十分にありえます」

 そう話すのは精神科医で産業医の井上智介先生。その凶器ともなる言葉について、こう解説する。

「『死ね』という言葉は、“この世からいなくなれ”という相手の存在を全否定する命令形の言葉です。『アホ』『バカ』『チビ』『デブ』といった相手の能力や容姿を侮辱するような言葉よりも、存在を全否定する言葉は心に大きく傷を負わせます。

 言われた側も何度も言われ続けると、“この人も自分を拒絶するのでは……”と周りの人すら信用できなくなり、どれだけしんどくても、誰かに頼ることができなくなる。さらに、何度も自分自身が否定され続けることで、自信を失い、自分の存在価値が見出せなくなる。結果、死という文字が頭をよぎる人も出てくるのです」