タモリ(右)と有吉弘行(左)
タモリ(右)と有吉弘行(左)
【画像】放送中の主な街ブラ番組リスト

まだまだ可能性に満ちあふれたジャンル

 以降、テレビ各局が街ブラの制作に乗り出していく。深夜番組ながら最高視聴率14.7%を記録した『DAISUKI!』(日本テレビ系)、芸能人が列車を途中下車し気ままに街歩きを楽しむ『ぶらり途中下車の旅』(日本テレビ系)、笑福亭鶴瓶がゲストとともに土地の人々と触れ合う『鶴瓶の家族に乾杯』(NHK総合)など、人気番組も誕生した。

 中でも「散歩系街ブラの火付け役になった」のが『ちい散歩』(テレビ朝日系)。俳優の地井武男さんを案内人に2006年にスタートし、2012年まで6年間にわたり放映された。

「このころの世の中は少子高齢化で不況でもあり、身近な趣味として散歩がブームになっていた。深夜帯で人気を集めた『DAISUKI!』はちょうどバブル崩壊の年に始まっていて、世の中もまだどこかバブリーな雰囲気が残っていました。

 けれど、みんなだんだんお金がなくなってきて、派手な観光名所は敬遠されるように。そんな状況下で誕生したのが、『ちい散歩』。ニッチな場所を面白がるというスタイルも時代とマッチしました。訪れた街にも喜ばれ、『ちい散歩』は観光振興に貢献したとして栃木市から感謝状を贈られています」

『ちい散歩』を成功例に、散歩系街ブラ番組が急増。同時に多様化、差別化が進んでいく。2007年にスタートした『モヤモヤさまぁ〜ず2』“世界一ドイヒーな番組”を謳い文句に、どこまでもユルい街ブラでコアな支持を獲得。

 さまぁ〜ずと女性アナウンサーの掛け合いも名物となり、大江麻理子狩野恵里などの人気者を輩出した。対照的なのが翌2008年にスタートした『ブラタモリ』で、博識のタモリが案内人を務め街ブラ+インテリジェンスというひとつのカテゴリーを確立させた。

 ユルさを売りにしてきた街ブラ番組だが、そこに一石を投じたのが、2012年にスタートしたフジテレビ系の『有吉くんの正直さんぽ』だ。

有吉弘行さんが毎回気の向くまま、街を歩き正直にコメントする。行列ができる蕎麦屋に40分並ぶこともあり、有吉さんの場合はそこで“マズイ”と言い出しそうでハラハラさせられたりもして、ユルさとは違う興味で視聴者を惹きつけた」

 ローカル局でも街ブラ番組は多数、生み出されている。冒頭で触れた北海道テレビ『錦鯉が行く!のりのり散歩』は、3度の特番を経て昨春よりレギュラー番組に。その後CSテレ朝チャンネルや北海道以外の地方局も放映を始め、放送エリアをじわじわ広げている。

錦鯉が行く!のりのり散歩』の伸びしろは─。

錦鯉は“こんにちはー!”のギャグが一躍ブームになり、親しみやすい芸風。そんな彼らの特性が地元の人との触れ合いを重視する街ブラの特性にハマった。彼らは下積み時代が長く、素人と感覚が近い。そういう意味で、うまく街の人と絡んでいければ、この先、化ける可能性もあるのでは」

 新番組がスタートしたら、次なる目標は番組を存続させること。そこで重要になるのは、案内人の存在だ。タモリにさまぁ~ず、笑福亭鶴瓶と、ご長寿街ブラ番組に欠かせない街歩きの名人には、ひとつの共通点があるという。

人に取り入るのがうまい人、素人と自然に絡んでいける人。そういう人でないと街の面白さを見つけられないし、逆に迷惑をかける危険性もある。毒舌イメージの強い有吉さんにしても、実際のところ相手を傷つけるような言動をとることはありません。

 有吉さんは街にお邪魔させてもらうというスタンスを大切にしていて、ロケ中にあれこれ街の人に注文を出すスタッフに対して“街に迷惑をかけるな”と注意したことがあると聞いています」

 今は何かとSNSで炎上する時代で、一歩間違えば番組存続の危機につながることもある。各局花盛りの街ブラ番組だが、それゆえ「量産されすぎている。飽和状態にある」と衣輪さんは懸念する。

消費期限がどんどん短くなってきている。テレビというのは飽きられたら終わり。今はその分岐点で、視聴者が飽きる前に何か仕込みがほしい

 とはいえそろそろネタも出尽くした感があり、後追い番組も既視感が強い。この先街ブラ番組に未来はあるのか。

「バラエティーはスターが出てくるとハネる傾向があります。例えば大食い番組でいうギャル曽根さんなどがそう。誰かスターが誕生すれば、街ブラも地味なジャンルではなくなるかもしれない。

 芸能人に限らず、名物素人が出てくるかもしれないし、そこから街ブラの天才が生まれるかもしれない。新しい何かが出てくれば、街ブラはもっと盛り上がる。まだまだ可能性に満ちあふれたジャンルだと思っています

 散歩するには最適な今の時季。わざわざ出かけたくなるような街ブラに期待したい。

きぬわ・しんいち メディア研究家。雑誌『TVガイド』やニュースサイト「ORICON NEWS」など多くのメディアで執筆するほか、制作会社でのドラマ企画アドバイザーなど幅広く活動中

取材・文/小野寺悦子

放送中の主な街ブラ番組
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