もらえるものももらわない……
たとえ労災にあったとしても、労災認定が下りればまだまし。本来なら正規であろうが、非正規であろうが、労働者はすべて労災保険に加入しているので、労災申請して認定されれば、さまざまな金銭的補償が受けられる。
ケガの治療費全額や仕事ができない場合の休業補償、障害が残る場合は障害年金、万一死亡した場合は遺族年金などがそれにあたる。雇い主の落ち度が大きい場合は損害賠償を請求できるケースも。
だが、高齢者の労災では、その申請にすらたどり着けないことが珍しくない。
「下請け業者で労災が起こると元請けの親会社に切られたり、大きな現場では仕事が止まったりする。つまり、仕事を円滑に進めるためには、労災が起こっては都合が悪いわけです。
だから、労災は出さない、つまり申請しないという暗黙の共通認識が漂っている業界もあります」
はっきりと「申請するな」と言われるわけではないが、空気を読んで労働者自らが断念するケースが多いのだという。
「職場の空気を悪くしたくない、会社に迷惑をかけたくないなどの理由で諦めてしまうんです。もともと日本は、過労死や長時間労働が長く問題視されてきたように、安全よりも利益を重んじる風潮がある。そこにメスを入れるのは難しいのです」