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 ‘78 年に『神奈かずえ』の芸名で歌手デビューした伊藤かずえ。

「実は、私の芸能界デビューは歌手だったんです。12歳のときでした。当時、最年少演歌歌手だったんですよ」

 翌年『伊藤かずえ』に改名して、映画『花街の母』で再デビュー。その後は映画やドラマに出演を重ね、’83 年の17歳のときに『高校聖夫婦』(TBS系)で大映ドラマと出会うことに。

 それから『少女が大人になる時 その細き道』(TBS系)、『不良少女とよばれて』、『スクール☆ウォーズ』、『乳姉妹』と立て続けに出演。ついに『ポニーテールはふり向かない』で主演に。その後も『花嫁衣裳は誰が着る』(フジテレビ系)、『ザ・スクールコップ』にも出演。大映ドラマには欠かせない女優となった。

「ドラマが変わっても出演者があまり変わらないから“また私?”という感じでした。でも役は変わるので、気持ちの切り替えが大変でした」

 撮影スタッフはドラマごとに交代していたが、同じスタッフになることもたびたびあった。だから周りは気心の知れた家族みたいなもの。

「普通、連ドラ撮影の最初は、出演者全員で本読みの顔合わせがあるんです。ところが、みんな慣れているから、それを省き、衣装合わせが終わると、すぐ撮影に突入でした」

 そんな大映ドラマの魅力は、なんといってもその独特のセリフまわしだ。

「なんか変だとは思うんですが、台本は面白いから、するっと読めてしまうんです。でも、これをまじめに演じられるかどうか不安でした。だって台本を読みながら何度も笑ってしまうんです」

 本番では絶対に笑わないようにして、またセリフも一言一句、間違わないようにしっかり覚えたという。どれも印象的なセリフばかりだったが、中でも忘れられないのは、

「『不良少女~』で、少年院の中で、いとうまい子ちゃんに向かって“恋は壊れやすいのよ。ビタミンCのようにね”というセリフがあったんですが、これを言うのには、抵抗がありました」

 伊藤はこのとき、初めて監督に相談したという。しかし監督から返ってきた言葉は、

「そんなことを言うな。このセリフは脚本家が考えに考えて、練りに練って作り出したセリフなんだから。一言一句変えないでくれ」

 それを聞いた伊藤は、

「これが大映ドラマの制作現場なんだと納得しました」

 それ以降、誰ひとりとしてセリフに疑問を投げかける出演者はいなかったという。