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 ドラマや映画で活躍し、舞台役者としての評価も高い柳下大。役者デビュー10周年を迎える彼は、舞台の本番中に負傷し、昨年、半年間もリハビリを余儀なくされていた。

「今年でデビュー10周年を迎えました。今年の目標は、“再スタート”。苦手な分野や、取り組んだことのない題材に挑戦していきたいと思っています。今回は初チャレンジと言ってもいい、会話劇というジャンルのお芝居。僕自身にとっても、この作品は特別な思いがあります」

 2月10日から始まる舞台『オーファンズ』で主演を務める柳下。今回の舞台に思い入れがあるのには、実は理由がある。

「去年の1月、'13年に演じた『真田十勇士』という舞台の再演があったんです。僕が演じた猿飛佐助は、忍者らしく動きでお客さんを魅せる部分が多かった。

 初演で演じて、どれだけツラいかも知っていましたし、前回よりも、もうひとつ何か“新しいモノ”がある佐助をみなさんに提示したかった。本番まで稽古にしっかり打ち込み、身体も絞って準備万端で臨んだんですが……」

 順調に公演数を重ねて手ごたえを感じていたが、「気合を入れすぎて空回ってしまった」という。

 半ばを過ぎたある日、昼公演の上演中のこと。着地の際、右ひざに大ケガをしてしまったのだ。

「少し踏ん張っただけで、脚がぐりんとはずれるような感覚でした。まだ半分近く公演はあるし、舞台装置は独特で、坂道がある。この足の状態では上り下りもできないし、演技なんてもっと難しい。たくさんの人に迷惑をかけてしまう、と、ナーバスになってしまいました」

 そんな窮地を救ったのが、演出家の宮田慶子氏。数々の賞を獲得している大ベテランで、今作の『オーファンズ』も手がける。

「初演で初めてご一緒したときにも、的確でわかりやすい指示をくださいました。僕が縮こまらないように丁寧に演出してくださって。それでも、ダメなところははっきりダメと指摘してくれる。宮田さんの指示を参考にしながら、猿飛佐助像を変えていったんです」

 “動けなくなってしまった以上、芝居で動けるように見せるしかない”と、公演期間中にもかかわらず、大きく柳下の演技を変更した。

「ケガをしてからすごく宮田さんのダメ出しが増えたんです。そのぶん動きを抑えて、それでも大きく動けるという空気を醸し出す。それまで演じていた佐助とは別の、新しい佐助を降板せずにやり遂げられたんです。宮田さん、キャスト、スタッフ全員に助けてもらいました」

 舞台は無事終えたが、半年間の療養生活に入ることになった。手術も松葉杖も初めての体験。当時を振り返ると表情が曇った。

「自由に身体が動かないということが、こんなにストレスだとは思いませんでした。歩くのにも苦労するので、しょっちゅう親に来てもらい、実家に帰ったり。お風呂に入るのもなかなか難しいんですよ。

 じん帯がくっつくまでは絶対に曲げてはいけないんです。服を脱いだり着たりするのも、ひとりでは難しいくらいでした」

 買い物ひとつするにも神経質になって、イライラする日も多かった。“そこまでネガティブになったのは初めて”と振り返る。芝居に恐怖を感じることもあった。

「芝居中にケガをしたし、ケガをしたらこんなふうに仕事ができなくなるし、と思い悩みました。その時期は“芝居はもう無理なのか。もう、ここまでなのか”と思って、テレビドラマも舞台も見たくなかったし、役者をやめようかとも考えました」

 舞台『オーファンズ』は東京と神戸の2か所で公演される。日程=2月10日~21日(東京)、2月27日、28日(神戸)。役者3人による狭さゆえの濃密な人間関係が描かれている会話劇。