定年後に訪れる“新生活”に待ち受ける3大リスク「夫・お金・仕事」の不安と悩みを解消するシニアライフ入門。第2弾は「居間夫」のリスクを乗り越えたエッセイストの小川有里さんの実例。
エッセイストの小川有里さん
エッセイストの小川有里さん

■夫の定年退職後1日目、ある作戦を実行

 “夫育て”に見事成功した小川有里さん(68)が、定年直前、もっとも恐れていたのは夫の昼ごはん作りだったという。

「男の人は時間に正確で、時報と同時に、“めしはまだか~?”と居間から叫ぶ。それにうんざりする妻が多いんですよ(苦笑)」(小川さん、以下同)

 そのリスクを先輩主婦に聞かされていた小川さんは、夫の定年退職後1日目、ある作戦を実行に移した。

「お昼に作った干物定食をきれいに平らげ、満足そうに箸を置いた夫に“明日から、お昼ごはんは自分で作ってね”と言いました」

■料理指導は、ゼロから、丁寧に、根気強く!

 夫は、予想もしていなかった妻の通達にびっくり。あわてて「めしとキムチだけでも、何でもええ……」と言い返してきたが、

「“何でもええなら自分で作ってね”って、一歩も譲りませんでしたね(笑い)。ここで怯んだら、あと何十年も苦労がつきまとうと思って“悪妻”になりました。おかげで今、夫はラーメンと冷やし中華の2パターンで昼ごはんを作れるようになったんですよ」

 道のりは長かった。でかい鍋をいそいそと取り出し、湯が沸くまで、じっと鍋の前に立ち尽くす夫。料理指導は、ゼロから、丁寧に、根気強く!

■家事は2択で迫り、手伝わない選択肢を与えない

「お昼を作らなくていいと、本当に楽ですよ。自分の好きな時間に外出もできる。ほかにも朝食の片づけ、ゴミ出し、お風呂掃除は夫の仕事になりました」

 と、2年がかりの見事な成長を明かす。いったいどうやって育てあげたのか。そのコツを聞いてみると、

「まず、家事は2択で迫ります。“ぞうきんがけと、掃除機どっちがいい?”というように、手伝わない選択肢を与えません。それから、“〇〇しなさい”という命令口調はNG。“今日は布団を干しましょう”と呼びかけるように頼む」

■子育てのつもりでやさしく教える

 重要なのは、笑顔で声をかけ、褒めること。

「こんなことまで教えなきゃいけないの!? と驚くことがあっても、子育てのつもりでやさしく教える。“掃除機の持ち方にセンスがある”なんて褒めて、気分を乗せるのも忘れずに」

 こんな得策もある。

「男性は評価されることを好むので、近所に“デキる夫”と評判が広まるような庭の手入れやゴミ出しから、頼んでいくといいですよ」

■仕上げは“家の外へ連れ出す”

 家事を手伝う夫が育ったら、今度は外の活動へ。これで居間夫は卒業だ。

「夫と一緒に散歩へ行って、近所の方とすれ違い、挨拶を交わすたびに“あれは〇〇さんの奥さん”と教えていきました。公民館やジムに連れ出し、シルバー人材センターへの登録もすすめました。おかげで今は勝手に出かけてくれる。夫の留守は妻の元気のもと!」

 そう言って無邪気に笑う小川さんが、夫の成長を心から喜んだのは、自分が入院したときだったという。

「どちらが先に死ぬかわからない。互いの自立は私のためでも、彼のためでもある。そんなことを夫婦で話し、言いたいことはちゃんとぶつけてみてください」